元魔王様と小さな精霊 3
当然シキが最初から言っている亡き主人が自分である事は分かっていた。
シキとの意思疎通やスキルの干渉も魔王時代に普通にしていたので、あれが真契約であったのは確実であり、仮契約と真契約を間違っていると言う事も無い。
「人族の歴史は出鱈目ばかりですが、人族にとって恐怖の象徴である事は確かなのです!」
シキは魔王時代に契約をして実際に行動を共にしていたので、本に書かれている魔王像が偽物である事は分かっている様だ。
「ですがその実態は、慈悲深く誰よりも仲間想いな方なのです。シキや多くの者達を魅了したのも当然の事なのです。」
強くなる事に全てを捧げた魔王時代だったので、そんな感想を聞いたのは初めてだ。
久しく感じなかった嬉しいと言う感情が湧き上がってくる。
「あのお方と契約出来たのが、シキの精霊生で最も幸せで大きな出来事だったのです。」
シキは本当に大事そうに言葉を発して、思い出を確かめる様に胸に手を当てる。
100年経った今でもその気持ちは変わらない様だ。
「そうか、それなのにたった2年程の契約で悪かったな。」
シキの想いを聞いてジルは少しだけ申し訳無い感情を抱く。
日に日に増していく膨大な魔力によって配下達と共に過ごせなくなったが、それは契約した精霊達も同じだった。
そして都市に結界を張って配下の者達と別れるタイミングが、シキと真契約を結んでから2年程経った頃だったのだ。
「時間は関係無いのです。シキにとっては2年であってもとても…。」
そこでシキの言葉は途切れる。
そして次にジルに驚愕の目を向けてくる。
「どうした?」
「何故知っているのです!?」
シキは驚愕と言う表情をしながら声量を上げる。
シキは今まで誰にもそんな話しをした事が無い。
なのでシキや魔王を抜かせば、かつての魔王の側近の者達くらいしか知らない事なのだ。
「まさか本当に気付いていなかったとはな。仮にも上級精霊だろう?精霊眼を使ってみろ。」
ジルは呆れた様な顔をしながらシキに言う。
精霊眼とは、幾つかの魔眼の効果を持ったスキルである。
中級精霊以上であれば誰でも使えるスキルだ。
精霊眼の効果の一つに他者の魔力を視ると言うものがある。
基本的に魔力を視ると言えば、魔力量を測り見ると言う意味が一般的だが、実は魔力は個人によって微妙に色や形が異なり、同じ魔力と言うのは存在しない。
なのでそれらを見分ける事が出来れば、どれだけ外見を偽ろうと魔力で人の判断をする事が可能なのだ。
そして転生して魔力量が大幅に減らされたと言っても、ジルの魔力の色や形は前世と変わっていない。
「ま、ま、ま、まさか、その魔力は…。」
言われた通り精霊眼で視たジルの魔力にシキが驚いている。
「久しいなシキよ。名付け親を忘れたか。」
「ま、ま、ま、まあぁ~~~。」
ジルの言葉も相まって、シキはあまりの驚きに目を回し、パタリと床に倒れてしまった。
10分程すると気絶していたシキが目を覚ます。
そして気絶する前の事を覚えていたのか、目を覚ましていきなり土下座をしてきた。
「シキ、何をしているんだ?」
突然土下座をしてきたシキに向けてジルが尋ねる。
体格差も相まって周りから見れば弱い者虐めをしている様な構図になっている事だろう。
「知らなかったとは言え、数々の非礼をお許し下さいなのです。」
シキは自分が以前契約していた元魔王がジルだったとは知らずに、召喚されてからずっと大仰な態度を取ってしまった。
シキが精霊生を通して敬っている人物はとても少なく、魔王ジークルードもその一人であり、そんな人物に対して失礼な態度を取った自分が許せないのだ。
「そんな事は特に気にしていない。顔を上げろ。」
ジルとしては魔王時代にそう言った事を強要した事は無かった。
なのでどんな態度を取られても全く気にならない。
「世界よりも広い魔王様の懐に感謝なのです。」
シキは反省した表情をしつつ顔を上げる。
「一つ訂正しておくが、我はもう魔王では無い。その呼び方はやめてくれ。」
今は部屋にシキと二人きりなので構わないが、人前で魔王と言う言葉が出るのはあまり好ましくは無いだろう。
それは本に描かれた魔王像がよく示している。
「た、確かに魔王様なのに人族のお姿をしているのです。あの後何が起こったのです?」
あの後とは死神に殺してもらった日の事を言っているのだろう。
この世界の者達からしてみれば、あの日突然魔王が張った強固な結界が消え、魔王の存在も消えた様に感じた筈だ。
ジルは死ぬ直前の事、死んだ後の事、転生の事等を話し聞かせてやる。
こんな話し普通であれば簡単に信じる事は出来無いが、目の前には実際に元魔王であるジルがいる。
更に精霊界には神からの一方通行ではあるが、一応神と交わる手段が存在するので、それも相まってジルの話しは信じるに値するとシキは判断出来た。
「成る程なのです。これからは魔王様改めジル様と呼ばせてもらうのです。」
シキは目をキラキラとさせながらジルを見て言う。
もう二度と会えないと思っていた存在に会えたのが嬉しいのだろう。
そんなシキと再び出会えた事にジルも嬉しく思っていた。
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