魔王様と魂廻の儀 8

「それでは人族に転生させる意味が無いではないか!これでも人族の中では上位の存在、充分だ。」


 しかしこれ以上は過剰だと創世神が却下する。

魔王としても恩恵を与えられ過ぎて、魔王時代の二の舞は困るので文句は無い。


「ケチー!」


「だが魔王時代の活躍を評価して特別なスキルを追加で一つ授けよう。時空神頼むぞ。」


 納得のいっていない死神を創世神が手で制して時空神に委ねる。

頼まれた時空神が頷き手を向けてくる。


「分かりました。貴方に授けるスキルの名は、異世界通販と言います。創世神と私が共同で開発した、唯一無二のスキルです。転生後に役立てて下さい。」


 手から光の粒子がキラキラと魔王に振り返り、スキルを取得出来た。


「異世界通販?どんなスキルなんだ?」


 この世界には通販と言う概念は存在していない。

更に魔族が暮らす国では物々交換が主流であり、金銭をやり取りする習慣すら無かった。


「貴方が魔王として過ごした世界以外にも、我々神は数多の世界を管理しています。それらの別世界の物資を入手する事が出来るスキルとなります。」


 世界を跨いで物を移動させる事が出来るスキル、それが異世界通販である。

世界の概念、時間と空間の概念を司る二人でなければ作れない特別なスキルと言える。


「ほう、異世界の物資か。」


 当然魔王も興味を惹かれる。

魔王時代にも様々な事を経験してきたが人族としての人生では、魔族以外の種族についてや異世界の物資についてと知らない事が多いので自然と楽しみだと思えてくる。


「ええ、異世界には貴方の世界では希少だった物や存在しない物がありふれていたりします。それらをスキルで入手出来るのですから、良い暇潰しになるでしょう。」


 異世界には魔王が住んでいた世界よりも、何かしらが突出して発展している世界が幾らでも存在している。


 異世界の知識や物が手に入れば、魔王が暮らす世界にも影響を及ぼす事になるが、神々にとっては楽しめれば特に問題は無いのであった。


「このスキルに関しては、転生後に実際に使って覚えると良いだろう。唯一無二のスキルなので、知れ渡ると良からぬ事を考える輩も多い。教える人物は選ぶのだな。」


 異世界通販の効果をしれば、一生スキルを使う為だけの奴隷にしようと考える者も現れるかもしれない。

便利なスキルと言うのは、欲する者が多いので危険が付き纏うのだ。


「分かった。」


 魔王としても手の内を知らない者に言いふらす様な事はしない。

信頼のおける仲間が出来るかは分からないが、相手は選ぼうと思った。


 話し合ってスキルや適正を決めて暫く待っていると、破壊神と奪神が握っていた手をそれぞれ離す。


「ふぅ、やっと終わったよ。あんたどんだけ色々能力を持っているのさ。万能の神にでもなるつもりかい?」


「…魔力もこれ以上奪えない。」


 二人とも心底疲れたと言った表情で魔王を見ている。

二人の努力の成果があって、魔王の中にあった力の大半が無くなっていた。


 普段からの全能感に満ちていた最強にして最恐の魔王の面影は、今は全く感じられない。


「どれどれ…、いいんじゃないかな?人族の魔力量よりは多いけど、微々たるものだよ。強さ的にも億分の一ってとこかな。」


 魔神が魔王の身体に触れ、魔力量を確認して他の神々に伝える。


「ご苦労だった、破壊神と奪神よ。では魔王よ、転生の準備は整った。次の人生では人族として、思うがままに自由に生きるがよい。」


 創世神が言葉をかけた後に、七人の神々が魔王に向けて祈る様な仕草をする。

すると魔王の足元に魔法陣が現れ、強く光り輝き出した。


「「「「「「「汝の転生たびに祝福を!」」」」」」」


 言葉が聞こえ終わると、魔王の意識が闇に沈む様に途切れた。






 魔王の転生が無事に終了したので、神々はそれぞれ解散した。

だが部屋には二人の神がまだ残っていた。


「それで魔神、上手くいったのかい?」


 死神は悪戯心をした少年の様な声色で尋ねる。

容姿も相待って側から見れば本当の子供の様である。


「当然だよ。君から預かったスキルも僕のと一緒にいつか目覚めるだろうね。」


 問われた魔神は得意げに返す。


「やっぱり強い方が見応えがあるからね!種子なら誰も気付かないと思ったんだけど、我ながらナイスアイディアだよ!」


「発芽するまでは神々でも分からないだろうし、後天的に才能で手に入ったとも捉えられるから、我々の仕業とは本人も神々も気付かないだろうさ。」


 二人の神々が成功を喜び合う。

実は魔王本人も気付いていなかったのだが、魔神が魔力量を測る為に魔王の身体に触れた時、二つのスキルの種を渡していた。


 直ぐに使える訳では無い微々たる力なので、誰も気付けなかったのだ。

二人にもいつ発芽するのかは分からないが、発芽すれば大きな力となる事は確信している。


「今からその時が楽しみだよ!」


 死神は楽しそうに笑い、二人は部屋を後にした。

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