魔王様と魂廻の儀 7

「他の神々にも言える事ですが、基本的には何かを生み出す事の方が得意とする神は多いです。故に破壊神や奪神の様な何かを消し去る事を得意とする神は、神からも頼られる事が多いのです。」


 破壊神や奪神とて、破壊や奪う事に関する力は授けられるだろう。

だがそれらを司る神としては、与えるよりも実際に使う方が得意な様だ。


「あまり仕事を増やしてほしくはないんだけど、今回は私達が適任だからね。」


「特別な転生だからか?」


 魂廻の儀専用特殊転生部屋に到着するまでの道すがらに、転生前の魂がどうなるのかは見た。

しかし神が直接関わっている様子は無かった。


「そうだよ!魂の浄化は神には効果が無い、つまり神の領域に踏み込んだ君も同じだね!だから一つ一つ力を消していくしかないんだ!」


 死神が魔王を殺すときにも言っていたが、神に神の力は簡単に通じるものでは無い。

なので下界の者達の為に作られた魂の浄化は、神の域に居る魔王には効かないのだ。


「同格の者の力は、本人の了承を得ていても破壊するのに時間が掛かるから気長に待っているといい。奪神も同じだろう?」


「…今一厘くらい奪った。」


 破壊神と奪神が手を握ってから弱体化作業は始まっているが、その結果は微々たるものだ。

元々が強過ぎるからである。


「確かに自分の中の能力と魔力総量が少しずつだが減っているのを感じるな。」


 意識しないと分からないが、ポツポツと力が徐々に消えていくのが感じられる。

我ながらこれだけの力をよく手に入れたものだと魔王は改めて感じる。


「人族レベルまで減らすとなるといつになるか分からぬな。」


 二人に手を握られており、作業に集中している様なので、身動きも取れない。


「そう言えば聞くのを忘れておったな。破壊神がある程度判断するが、何か残しておきたいスキルや魔法適正はあるか?」


 創世神が魔王に向かって尋ねる。

人族に転生するとしても全ての力が取り上げられる訳では無い。


 不自由無く生きていける様に、幾つかは転生後の為に残してもらえるのだ。


「ふむ、死神には魔族の時とは違う生活が送れると聞いた。ならば戦闘系は必要無いと判断していいのか?それならば戦闘系以外で何かしら便利なのを欲しいのだが。」


 人族に転生した後は、どう過ごしていくかはまだ分からない。

だが魔王として過ごしてきた時の様に、戦闘ばかりの日々と言う事は無いだろう。


 転生後に不便無く生活するだけならば、戦闘系の力はあまり必要無いと感じた。


「人族同士でも争いはある。盗賊、人攫い、暗殺者、戦争、上げればキリが無い。戦う手段は何かしら持っておいた方がいいぞ。」


 戦神が魔王にアドバイスする。

魔王として過ごした期間に同族のそう言った存在に出会う事が無かったので、全く意識していなかった。


 自分に戦う意思が無くても、悪意ある者に目をつけられれば、弱者は搾取されるのみ。

自衛の手段はあるに越した事はない。


「それに次の人生は自由に過ごしてもらう予定だが、緊急の頼み事をする可能性もある。そう言う意味でも強さはある程度欲しいところだな。」


 創世神がさらりと重要な事を言う。

所謂神託と言うものである。

教会に勤める司祭や聖女が受け取ったと言う話を魔王も聞いた事があったが、どうやら自分もそうなる様である。


 魔王時代の様に厄介で難しい頼みがくると苦労するのは目に見えているので、あまり厄介事に巻き込まれたくは無い。

神から頼まれる事になるので無駄な事かもしれないが、密かに祈る魔王であった。


 神々のアドバイスにより、戦闘系の技能は取得した方がいい事が分かった。

しかし魔王時代は、どんな攻撃手段も使う事が出来たので、いきなり選べと言われても難しい。


「成る程な。だが我は生憎と人族の基準を知らないのでな。神々のオススメを聞いてもいいか?」


 人族について詳しくない魔王は、神に委ねてみる事にした。

すると神々がそれぞれのオススメを教えてくれた。


 万能鑑定、能力隠蔽、詠唱破棄、無限倉庫、基礎身体能力の向上、複数の魔法適正等々である。

他にも魔王自身が欲する物を幾つか残してもらった。


「ふむ、こんなものか。人族にしては強い気もするが、簡単に死ぬよりはいいだろう。」


 人族に転生する為に残すスキルや適正を見て創世神が呟く。

人族がこれ程のスキルや適正を持って産まれる事は殆ど無く、それこそ勇者と呼ばれる様な一握りの者だけだろう。


「えー、もっと強くてもいいんじゃない?他の種族に比べると、物足りないよ!」


「僕もそう思うな。僕達にとっては見ている分には強い方が面白いだろうし。」


 人族にしては破格の能力ではあるが、死神と魔神は物足りない様である。

ジルの生活を覗き見るのは自分達にとっての娯楽の一部なので、強い方が見ていて楽しめると思っての発言であった。

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