魔王様と魂廻の儀 6

「あんたが私達の同胞になるのも楽しそうだけどね。暇なのは嫌なんだろ?」


 破壊神も地上の様子を見ていたらしいので、魔王の事情は知っている様だ。


「暇は充分体験した。神々程ではないだろうがな。」


「よく分かっているじゃないか。あの程度で根を上げていては、寿命が無い俺達には付き合えまい。」


 戦神が同意しながら大きく頷く。

娯楽が少ない神界で神になっても、魔王にとっては退屈以外の何者でもない。


「ならば人族としての転生で決定だな。」


「そう言えば魔王君が人族に転生する理由を聞きたがってたよ!」


 死神からの提案では、神になるか人族になるかの二択だった。

種族は沢山存在するのに何故人族のみなのか少し気になっていたのだ。


「説明していなかったのか?」


「だって創世神が急かすんだもん!」


「簡単な話ですよ、貴方の力が強過ぎるからです。」


 戦神の問いに死神が不満を現しているが、時空神がスルーして答えてくれる。


「強過ぎるから?」


「ええ、地上には複数の種族が存在しています。そして種族が違えば、文明や基礎能力も変わってきます。エルフ族であれば弓や魔法、巨人族であれば力や体格に優れている様に。」


 当然地上で生きてきたのだから魔王もある程度は知っている。

種族が違えば身体能力や身体的特徴に変化がある。


「そして人族は繁殖能力が高いよね。故に人口が多種族よりも多くなって、副産物的な感じで文明も他種族よりも大きく発展している。」


 魔神の言う通り、それが影響して魔族の滅亡の危機にも発展したりした。

数はどの様な事に対しても力となる。


「だが人族は数が多いだけの種族だ。個々の力は弱く、成長にも限界がある。だから私達は人族に転生してもらいたいのさ。強過ぎるあんたを弱くする為にね。」


 破壊神は魔王を指差しながら言う。

他の種族と違って個人としての能力が低い人族に転生してもらうのが神々にとっては一番都合が良いらしい。


「成る程な。」


 魔王は神々の説明を聞いて納得した。

神の領域まで力を伸ばした自分の力は、転生する際に大きく削る必要がある。

でなければ神々が地上に干渉するのと同じ様になってしまう。


 更に転生するにしても、長命種や優れた種族になってしまえば、神々の恩恵が少なくても劣化魔王の様になる可能性があるのだ。


「此方の都合で申し訳無いがそう言う事情だ。とは言え全ての力を消す訳では無い。それでは簡単に命を落としてしまうからな。」


 創世神はある程度譲歩してくれる様である。

人族は数は多いが個々の力が弱い為、最も死にやすい種族とも言える。


 魔王時代の力が全て無くなれば、転生しても直ぐに命を落とす可能性が高いとの判断だろう。


「貴方には魔族を滅亡から救って頂きました。私達神々もその働きにはとても感謝しているのですよ。」


 時空神がにこりと笑いながら言う。

魔王時代に頑張ってきた事は、神々にもしっかりと評価されている様で安心した。


 魔王となってからの大半は椅子に座って過ごすだけだったので、少しだけ申し訳無い気持ちになった。


「よし、確認も取れたので早速作業に取り掛かってもらおうか。」


 創世神の合図で神々が立ち上がる。

魔王が神で無く人族に転生する確認が出来たからだろう。


「作業?」


「あんたの弱体化作業さ。その為に私と奪神が呼ばれたんだしね。」


 破壊神が奪神を見ながら言う。

前回は神々に多大な恩恵を貰い受ける形だったが今回は違う。


 様々な能力を持つ魔王を人並みに弱体化させる目的の為に二人の神が必要なのだ。


「ふむ、イメージと少し違ったな。」


 破壊神と言えば大地や星を破壊する様なイメージを持つ者も多いだろう。

魔王のもそう言った大規模な破壊をイメージしていた。


「ド派手な破壊行為も当然出来るけどね。私は大小に関わらず、壊す事に特化した神なのさ。」


 魔王のイメージ通りの行いも出来るが、目に見えない能力やスキルをも破壊する事が出来るのが、破壊を司る破壊神の力なのである。


「破壊神にはスキルや魔法を破壊してもらい、奪神には魔力を収奪してもらう。」


 創世神に支持された二人の神が、魔王の手をそれぞれ握る。

魔王が持つ力に干渉する為である。


「魔力の収奪か。魔力に関する事ならば魔神の出番ではないのか?」


 魔力を司る神である魔神ならば、魔王の膨大な魔力もなんとか出来る筈だ。

現に魔神は魔王と同格か少し上回る程の魔力を所持しているのだが、完璧に制御出来ている。


「神にも向き不向きがあるのさ。僕は魔力を司る神だから、君の魔力をどうにかする事も出来なくはないんだけど、奪うよりも与える方が得意って感じだね。」


 魔王になる前にも魔神からは膨大な魔力の恩恵を貰った。

膨大過ぎて困る事になったので、得意過ぎると言えるくらいである。

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