第3話

 次の休み時間も、その次の休み時間も魂子は絡んできた。

 面倒なので黒星は無視したが、魂子はめげずにお祓いに行く事を勧めてくる。

 そして昼休みがやってきた。

 勿論魂子もやって来る。

 両手にペイズリー柄の布に包まれた弁当を持ち、当然のように空いている机をくっつけて正面に座る。


「見て見て白神君! 授業中に近場で評判の良いお寺とか神社調べてみたの! こことか近くに映画館あるし! 映画見るついでにサクッと行っちゃいなよ! ちなみにあたしのオススメはマリオの奴! もう、はちゃめちゃにちょ~最高だったんだから! どう最高かは見てからのお、た、の、し、み、って事で!」


 ノートを広げると、そこに書かれた汚い地図を指さして魂子は言った。

 黒星は溜息をつくと無言で立ち上がった。

 すかさず魂子も立ち上がる。


「トイレまでついてくるつもり?」

「……失礼しましたぁ」


 えへへと恥ずかしそうに舌を出し、魂子が着席する。

 フンと鼻を鳴らし、黒星は教室を出て行った。

 トイレに行って用を足し終えると、子分を連れた北山がやってきて出口を塞いだ。


「やっと二人っきりになれたな?」


 北山がこれ見よがしに拳を鳴らす。

 黒星は背後の二人を一瞥し。


「高校生の癖に数も数えられないの?」

「な、がっ!? うるせぇ! こいつらはただの見張りだ!」


 顔を赤くすると、北山はドンと壁を叩き、右腕をグルグル回しながらこちらに歩み寄る。


「転校生が! 生意気なだけじゃなく夢野ちゃんにチヤホヤされて、その上好意まで無碍にするとか許せねぇ! この俺様が天に代わって成敗してやるぜ!」

「それ、言ってて恥ずかしくない?」

「うるせええええええええ!」


 黒星の顔面目掛けて北山が渾身の右ストレートを放つ。


「――ぐはぁ!?」


 次の瞬間、北山の身体は入口近くまで吹き飛んだ。


「て、てめぇ……、なにしやがった……」


 小便臭い便所の床に仰向けに倒れながら、北山は震える足で起き上がろうと無様にもがく。


なにも」


 黒星は棒立ちのまま肩をすくめる。


「う、嘘つくんじゃねぇ!」

「本当だ。君達も見てただろ?」


 大口を開けて唖然としていた見張りに視線を向けると、二人はガクガクと頷いた。


「北山君があいつを殴ろうとしたらいきなり吹っ飛んだんだ……」

「そんなバカな話があるかよ!」


 気合で立ち上がると、北山は顔を拭った。

 右手には、べったりと赤い物が付着している。


「ひ、ひぃ!? ち、血がぁ!?」


 悲鳴をあげて北山が尻餅を着く。


「ただの鼻血で大袈裟な奴」


 黒星は肩をすくめると、手を洗って出口に向かった。


「退けよ」

「ひぃ!?」


 アホ面で立っていた見張りを退かすと、ドアノブに手をかける。

 そこで黒星は思い出したように北山を振り返った。


「これに懲りたらもう僕に関わるな。さもないと、次はその程度の怪我じゃ済まないよ」

「ちくしょう! なんなんだよてめぇはよぉ!?」


 情けなく泣きわめく北山に肩をすくめると、黒星はトイレを出た。

 そして学食に行き、唐揚げ定食をポン酢で食べた。


「……まぁ、400円にしては悪くないか」


 その後は図書室で昼寝をして時間を潰した。



 †



「………………白神君、ウンコ長すぎない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る