魔王様と愛の告白と。

 あの夏の出来事以来、特に杏子さんとは何もないまま。


 秋になるかどうかの頃に、やっと富和君と僕は読み終える事が出来た。

 そしてお互いに全く同じ答えが出たので、斉賀さんに確認すると、望んだ通りの答えに辿り着いてくれてありがとうと言われた。


 そして今夜、杏子さんに改めて交際を申し込む事に。


「では、ジャンケンでもしましょうか」

「俺は先ず、やっぱり先輩に最初は譲りたいんですけど、ダメですかね」


「何か理由が有るなら、少しだけ聞かせて貰えませんか」

「何か、俺が先は納得出来無いんで、気が散りそうなんですよね」


「平等主義で真面目で素直。ありがとうございます、敬いの気持ちと言う事で受け取らせて頂きます」

「はい、じゃあ、ご武運を」


「はい、行ってきます」


 斉賀さんが気を遣ってくれて、今は家に杏子さん1人。

 初めて、杏子さんの家で2人きりになれる。


『どうぞ』

「お邪魔します」


『凄く、何だか気まずいです』

「じっくり、話し合いましょう」


『はい』


 きっと、何をどんな風に言っても、どちらも選べないと言われるのだと分かっている。

 けれど、先ずはきちんと気持ちを伝える事が最優先。




「はい、富和です」

【やっぱり、ダメでした、今から来て頂けますか】


「はい、直ぐにいきますね虎さん」


 人間の枠を少しだけ超えている魔王様に、人間の枠は小さ過ぎる、だから俺達が枠から外れる事にした。


 どちらも選べないなら、両方を選んで貰う。


 両方を選んで貰えば良い。

 きっとそう言われただけなら、選べなかった選択肢だった。


 あの小説の様に虎さんとも何度もシミュレートして、コレしか無いと分かった。

 点と点を結んだ程度じゃ絵にならない、何個もの点を段階を経て繋ぎ合わせて、やっと絵が出来上がる。

 自分をややこしいと評した魔王さんの様に、複雑でややこしい過程だったけれど、答えはシンプルだった。


『こんばんは富和君、どうぞ』

「お邪魔します、杏子さん」


 恥ずかしいとか、男らしさとか女らしさとか、そんな些末な事で悩むのが間違いだった。


『あぁ、はい、幸将ゆきまさ君』

「久遠さんがダメだったからって、俺を選んで貰えるワケじゃないですよね」


『うん、ごめんね』

「じゃあ俺らを選んで下さい、2人共、選んで下さい」


『それがどう言う意味か分かって言ってますか?』

「はい、どちらか、だからダメなんですよね。だからどっちも、お願いします」


『実質ハーレム化では』

「子供を作らないなら、杏子さんと虎さんが結婚して、俺が養子で入れば3人で家族になれます」


『この1ヶ月位で、そこまで?』

「沢山、いっぱい考えました。虎さんとも話し合って、考えて、もし俺らがどっちも選ばれないなら、そうしようって決めてました」


『選ばれないって、分かってたんですね、虎ちゃん』

「けど先ずは気持ちをちゃんと伝えるのが、大事だと思ったので。叶わないかも知れないから言わない、って変じゃないですか?」


『童貞とは思えませんね』

「けど童貞なんですよね」


『2人共を選ばない可能性は?』

「アレ以来、杏子さんが誰ともしなくなったのと。虎さんを好きなのは確定なので、虎さんだけを選ばなかった時点で、俺か俺らの可能性が有るなと思いました。いつか、どっちか、どれかが選ばれるまで、俺らは好意を伝え続けるつもりです」


『分かりました、じゃあ、虎ちゃんを』

「はい、直ぐに呼び戻しますね」


 そしてコレから、虎さんが来てから何を問われるかも、沢山考えた。

 真に相手の身になって考える。

 自分が魔王なら、杏子さんの様な人生を送ったら、杏子さんならどう考えるか。


『虎ちゃん』

「僕らは死ぬ気です、死んでも良いです」

「俺も、そこまで考えて、3人で一緒に幸せになろうと思ってます」


『明日私が人間になったら、殺されるとしても』

「僕は元々、杏子さんに決まった相手が出来たら、自殺に見えない様に死ぬつもりだったので。もし一緒にしねなくても大丈夫ですよ、富和君を先に送ってから、僕が死ぬつもりなので」

「はい、虎さんが来るまで待ってるつもりです」


『分かってるんだけれど聞きたい、何で?どうして?』

「ある小説を読んでバイアスを外したんです、僕も富和君も」

「それでココや杏子さんに合わせて、何度も考えて出した結論なんですけど、他に何か良い案って有りますか?」


『ううん、多分、無い。先ずは、と、幸将ゆきまさ君、お風呂どうぞ』

「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る