魔王様の部下の妹。

 18才を超えてから、お兄ちゃんが大好きな魔王様の成人用SNSを見た時、親の偉大さを知った。


 私は応援したくなかった。

 純朴の権化みたいなお兄ちゃんが相手にされるワケが無い、数多のイケメンが打ち砕かれて音を上げたのに、お兄ちゃんには耐えられる筈が無いと思って。


 けど親は変わらず応援すると言って、お兄ちゃんはありがとうと言った。


 好きだから耐えられる。

 けどそれは私の勘違いだった。


 好きだから真意を知りたい、理解したい。

 お兄ちゃんはその一心で魔王様の会社に入った。


 そして、今は完全に打ち砕かれたのか、電話口で泣きじゃくっている。


「私は何も知らないからこそ聞くけど、状況も何もかも無視して、お兄ちゃんはどうしたいの?」


【抱きたい、好かれたい】


 お兄ちゃんにも欲は有るのね、良かった。


「念の為に聞くんだけど、そこまでの事、言った?」


【言って、ないかも】

「好きって言われるだけより、抱かれたいがセットになってるとコンボが成立して、効果2倍だと思う。お兄ちゃんが言われたら、そう思わない?」


【おもう】

「だよね」


【けど、俺、邪魔したくない】

「絶対に、譲れば良いだけの問題?」


 こう、絶対を質問に混ぜると、お兄ちゃんは自分の判断に迷いが出る事が多い。

 馬鹿正直で素直で、真っ直ぐで、良い人間。


【だって、勝てる気がしないし】


「あぁ、ライバルが強敵なのね」

【うん、凄い、かてない】


「勝ってる部分とか、そのライバルに評価されてる部分って、何も無い?」


【ある】

「何処?」


【真っ直ぐだ、とか、俺がいつも通信簿に書かれてる内容】

「それ、そのライバルに有る様に見える?」


【半分】

「半分かぁ」


【嘘、真反対】

「成程ねぇ」


 ちょっと口下手で、相手を悪く言えないのがお兄ちゃん。

 お兄ちゃんが居なかったら、もう少し私は腹黒かったと思う。


 子供の頃はただの馬鹿だと思ってたけど。

 他人からの良い影響はすんなり受け入れて、悪い部分は容易く他山の石として脇に置ける人。

 それに気付いた瞬間、素直に凄いと思ったし、良い奴じゃんと思ってからは尊敬してる。


【けど、凄く真面目で、思いが真っ直ぐだから】


「お兄ちゃん、もしかして、ライバル年上?」

【うん】


「そら相手が上に思えるよ、だってそれだけ長く色々と経験してるんだろうし」

【ぅう】


 偶に自分が姉なのかと錯覚する時が有る。

 けど、それはそれで良いと思ってる、得手不得手が兄妹で違うだけ。

 お兄ちゃんは勉強が好き、私は感性系で運動とか芸術関係が好き


 私はそこそこモテるし、好みも平均的だからこそ、それなりに経験を積めた。

 けどお兄ちゃんはファニーチャーミー好きで、少し高根の花に一目惚れしてしまったから、偶々経験が詰めなかっただけ。


 多分、普通の好みだったら、普通にモテてたと思う。


 この世界は結局は顔面偏差値が全て、その象徴こそが魔王様だから、世間は否定しきれないでいる。

 前のお姿をブスだと民衆に言わせたままで、今のお姿を美人だと持て囃してるんだもの、どう見ても顔面偏差値が全てじゃん。


 ぶっちゃけ、ウチの家族全員普通、良い意味で普通。

 けどお兄ちゃんにはちゃんと良い所が有る、凄く良い所がちゃんと、あるのに。


「私ね、お兄ちゃんには凄く良い所が有ると思うの。それは魔王様も直ぐに分かる部分で、だから好きって言っても、逆に、流すだけにしたんだと思う。だから、もし、決定的じゃないなら、もうすごじだげ、がんばっでほじい」


【なんで、お前まで】

「だっで、お兄ちゃんは、良い人間だんだもん。美女と野獣みだいでぇ、叶っで欲じいんだもんん」


【けど、俺】

「女の子は、野獣でも、何でも良いから、王子様じゃなくても良いから、自分だけを好きになって、自分だけを大切にしてくれる、人が、欲しい、の」


【俺も、そう、思っでる】

「もー、だがら反対じだがっだのにー、お母さんとお父さんが応援するって言うがらぁ」


【アレも、ちゃんと、理由が有るんだよ】

「けど、それも、これも全部、大人達のせいじゃんかぁ」


【お前、分かってたのか?】

「普通だって、知って欲しくて。安心して、貰う為だって、女子は皆思ってるもんー」


【ごめんな、お兄ちゃんこの前やっと分かって、ごめんな】

「優しいから、憎めないから、だからお兄ちゃんには無理だと思っでたげど、でもそれでも応援じでだのにぃ、諦めたら許ざなぃ」


【でも、本当に、俺邪魔かも知れないんだよ】


「そで、誰にいわれだの」

【それは、言われて無いけど】


「じゃあただのお兄ちゃんの思い込みかもしれないんじゃんかぁ、ばかぁ」

【ごめん、分かったから。ほら、明日は出掛ける用事は大丈夫なのか?】


「だめ、出掛げる」

【コレ以上泣いたら目が晴れちゃうだろ?ごめんな?】


「まだ諦めないって言わないど、出掛けない、映画行かないでフラれでやる」


【今日は諦めない】

「あじだも」


【分かった、月曜まで、頑張って考えてみる】

「ぞれど、あの本、ちゃんど読んだ?」


【全部は、まだ、だけど】

「貸して貰えで、本命がも知れないなら、ぎっと、ちゃんとヒントが有ると思う」


【今週末には、ちゃんと読み終える】

「うん」


【ありがとうな、ちゃんと目を冷やせよ?】

「うん」


【じゃあ、ありがとう、おやすみ】

「うん、おやずみ」


 自分が思ってた以上にお兄ちゃんが好きで、魔王様の事もこんだけ好きで、ビックリした。

 こんな泣く筈じゃなかったのに。


 本当に、夢物語みたいになって欲しくて、それが叶わなそうで。


 あぁ、ダメだ、また泣ける。


 勝手にお兄ちゃんと魔王様が結ばれたら、魔法が解けて、魔王様が人間になれると思ってたから。

 それが、それも叶わなそうで。

 凄く、自分でも、残念なんだと思う。

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