第17話◆元魔王、こっそり視察に行く2
4人で分担しながら幌馬車の荷台からおろした調理器具や天幕を組み立てていく。
天幕の中に敷く厚手の敷き物なんかも貸し出ししているが、中が見えないのをいいことに質のいい厚手の絨毯を敷き詰めた。
無論、色はくすんだ青系で、ぱっと見は使い込まれた古そうなものに見える。
偽装、大事。
「こんなの売ってましたよ」
ヘンリーさんが露店で買った物をトレイ代わりの木の板に置いて持ってきた。
近くで取れた兎のスープと、丸くて平べったいパンが何枚かと、パンにつける具入りのソースだった。
「へぇ、おいしそう」
「他には焼いてチーズをのせた果物とかありました」
「食べ終わったらそっちも見に行きたいね、メルク」
「そうですね、叔父上」
「暖かな飲み物をいれたぞ」
「ありがとう、マサ」
そんな事を話ながら、周りをよく観察する。
実際、派遣で来た兵士さんらもリラックスしているし、中央にある竃も利用者は多い。
その場にいる駐車場利用者が相互互助して助け合い、情報交換しつつ過ごしてくれているのはよかったな。
そう言えば情報交換と言えば、と詰め所壁にもなっている場所に掲示板があるので、ご飯を終えたから見にやってきた。
ここは近隣や駐車場内のお知らせだったりと様々な情報が記載されている。
ある人への伝言板にも使われているので、つい日本の新宿の有名伝言板の3文字を書いてみたくなる。
ちなみに、駐車場内や国からのお知らせ、兵士さんが自主的に掲載する分は無料だが、個人から個人宛、近隣農家からのお知らせなんかは有料になる。
と言っても、10cm×20㎝くらいの薄い木の板で銅貨2枚とかそんなかんじだ。
「なになに……近隣では角兎が大繁殖してるので狩ったら1匹銅貨1枚で駐車場で買い取ると。へー。さっきのスープの原材料か。こっちは……漁村で大漁、お土産はぜひヴィヴナ漁村へ、か」
目だった注意喚起も強い魔物の目撃情報もないから、ある程度は平和か。
駐車場と近隣警備として雇っている4人の冒険者さんには、二人一部屋で日当付き、食事も露店の物であれば一日3食付いてくるので、結構いい稼ぎになるようだ。
月一でうちの領から鍛冶職人派遣して、装備点検してもらってるしね。
「メルク、何か面白いのあったかい?」
「いえ、特には。なので明日は予定通り共同駐車場に向かいましょう」
「そうだね。帰りにあのパン買っていこうかな」
「あれ美味しいでしょ。ウチのレシピを教えたんですよ」
「え?なにそれ。僕もそのレシピほしいから買わせて!」
「いいですよ。共同の方に提供しましょう。同じパンになるのであとは個人差出せばいいし」
「ありがとう。旅をしていて一番の楽しみは食だし、こうやって安心して眠れる場でもあるからね」
「ええ」
安心安全な場所、整備されて歩きやすい道を作っていくのも、領としての公共事業の一環なのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます