第16話◆元魔王、こっそり視察に行く
正宗と貞宗を家に迎えてから1ヶ月半。
既に二人は長年この家に仕えていたような錯覚を思わせるほど完璧だった。
正宗はもともと、俺の秘書系
だが貞宗、お前なんなの?
アリスが驚くほどのメイド業に、料理長すら唸る腕前、更には育児関連に関しても知識は豊富でフロレアルのお世話なんかリーチェが完全に信頼を置くようになった。
「自分もまだ生まれたてですので、ある程度はわかるのです」
と、フロレアルがどんな理由で泣いているのかすら解るという。
やだこの子、フロレアルの護衛としてマジ完璧なんですけれど。
あと、先日解ったんだけど、この子、女の子だった。
ぱっと見ボーイッシュな感じだし、正宗に似てるしでずっと勘違いしてたんだけれど、アリスがメイド服を着せて来た時驚いて、ようやく理解。
最初の執事っぽい服は何だったのか、と思ったら正宗がきちんとしていればそれでいいって同じのを着せてたようで。
お前、そういう所だぞ。
で、貞宗はいまアリスと同じ濃紫のメイド服に、髪をまとめて置くためのキャップ、フリル付きのエプロンという、theメイドな恰好をしている。
「動きにくいなら前の執事用の服でもいいんだぞ?」
「いえ、問題はありません。何よりこのエプロン、裾を持てば大量に物を運べるので便利です」
「まぁ、気に入ってるならいいよ……」
たしかにエプロンって片付けものを運ぶときにも使うしね。
今、僕はリーチェと共にフロレアル……フロルを腕の中でよちよちしながらテラスでお茶をしている。
リーチェは貞宗の入れてくれる薬草茶が体に合っているようで、飲み始めてから産後の体調が回復している実感があるという。
この分なら任せても大丈夫だな。
期待以上の働きだ。
「メル様、そろそろお時間です」
「うん、わかった」
「あら、今日は何かあるの?」
「うん、エクセル叔父上と一緒にこの間の私設駐車場と共同駐車場の抜き打ち検査~」
「そうなのね、気を付けて」
「うん」
正宗に促されて惜しみつつ、フロルをリーチェに渡す。
リーチェの頬にキスをしてから、僕は正宗を伴ってテラスを出た。
すると屋敷のエントランスでは既にエクセル叔父上が待機していて、優雅にお茶とケーキを嗜んでいた。
「エクセル叔父上、来ていたのならお知らせくださいよ」
「ああ、ごめんね。早く着くとここのメイドさんがどうぞってケーキセット出してくれるからつい……」
「気持ちわかります……」
エクセル叔父上とお付きの秘書さんのヘンリエットさんは申し訳なさそうにしつつも、ケーキを食べるのをやめなかった。
うん、わかります。うちのケーキ、おいしいからね。
結局、出されたケーキ3種類を食べ終わってからの出発に。
「何だったら一緒に行く日はうちでモーニング食べてから行きます?」
「え?いいの?あの厚切りベーコンある?」
「いいんですか!?」
「だしますよ。なら次はモーニングビュッフェ形式にしましょうか。目の前でふわふわオムレツつくってくれるやつ」
「「!!」」
目がキラキラし始めたので、近いうちにまた何か理由をつけて視察や招待をしないとな。
◆◇◆◇◆
抜き打ち検査は抜き打ちらしく、全員魔道具で姿を変えての潜入調査とした。
小さな幌馬車もちの個人商を装い、いざ参らん!
「最初は僕の私設の方から」
「うん」
「ドキドキしますね」
「今までの売り上げと、使用した種族、年齢、利用時間帯等の記録です、ぞうぞ」
「ありがとう、マサ」
僕はそのままメル、エクセル叔父上はワード(弟さんの名前なんだって)、ヘンリエットさんはヘンリー、正宗はマサと呼ぶように徹底し、僕と叔父上がそのまま叔父と甥、ヘンリーさんが叔父の秘書、マサが護衛という形にしててある。
駐車場に入って今日は一泊する旨を王国から派遣してもらっている兵士さんに伝えて料金を支払い、割り当てられたスペースまに馬車を停める。
別料金で馬のお世話セットや煮炊き用の薪なども販売しているのでそれも購入。
これらの販売物の質も調査対象になるのだ。
馬のお世話セットはこの森周辺伐採した後で種をまいた牧草、リンゴ2個と少々の塩。
薪も火をつけやすくしているのか、油分を含んだ樹を細かく裂いたもの少々、細い枝少々、中太、薪20本のセット。
生活魔法や火魔法を使えない人の為に、火を熾してくれるサービスもしているようだった。
うんうん、いい感じじゃないか?
そんなことを思いながら火を熾し、マサが備え付けの井戸から水を汲んで薬缶に入れてきたのでそれを吊り下げた。
この吊り下げる道具も貸し出ししてるんだよね。
さて、お茶にしますかね。
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