第12話◆元魔王・領地経営する12

 領境に造る駐車場のプレオープンから1週間。

 街道の補修もそこそこ仕上がりつつあると報告があったので、本格的にオープンすることにした。

 補修工事中は片側斜線になるが、現場監督が馬車の誘導を専門にしてくれる人を雇ってくれて、更にはそこで暴れたり自分を優先しろとのたまう商隊は『カフカ領主とライズ領主に報告する事になる』という文言を記載した木札を渡してあるのでOK。

 それに、それぞれの出入り口での説明もしているので、滅多なことでは騒ぎが起こることはないだろう。


 一応、僕側の方の店員にはソルティが連れてきた魔族の密偵も紛れ込ませているので、何かあれば僕やエクセル叔父上にも伝わるだろう。


 そんなこんなで、3日間ほど盛大にオープン特別際することになった。

 期間中の簡易風呂の無料開放、利用者への手土産もしくは食事の割引クーポンの配布、宿泊施設半額、等だ。

 それが済んだら通常営業に切り替えるので、今回のオープン期間に合わせて王都からの一泊旅行ツアーなんかも組まれたそうだ。

 あまりたくさん来られてもパンクするので、朝と夕の2便で宿泊施設の利用は無し、無料の貸し出しテント泊になるが、それもで申し込みが殺到したと、駐車場経営を担う運行ギルドがホクホク顔であいさつにきた。


「上下線で違う領の特産品を味わえるのもそうですが、簡易風呂場や宿泊施設があるのは画期的です。国王様……サリ君から聞いた時はびっくりしましたが、実際に目の当たりにするとすごいの一言ですね。サリ君もよく見て他の駐車場にも建設できるのならやるように、って言われたんですよ」


 と、現国王で僕のパパをサリ君呼びするこの人……、バルムング・ガレルさんはじいじのお弟子さんの一人だった。

 エクセル叔父上の3人後の後輩さんらしくて、じいじには騎乗スキルの強化や馬車の強化、振動を軽減する魔法、経営学などを教わっていたようだ。

 お爺様が運行ギルドに出資している王都の侯爵様で、それでよく小旅行できる無料チケットで一緒に旅をしていたと話す。

 なので、大きくなったら運行ギルドに就職したいと思うようになったのだとか。


「なんでも仰ってください、バルムング叔父上」

「君にそう言ってもらえると嬉しいよ。メル君。ぜひとも今後も善き関係でいたくおもう」

「僕も色々と教わることがありそうですので、その時はぜひご伝授ください」

「宜しく頼むよ」

「はい、お願い致します」


 こうやって色んな知り合いが出来るっていうのは良い事だよなぁ。

 パパもだけれど、じいじやヘルメス叔父上のおかげだ。

 いいひとに拾ってもらってよかったぁ。


「所でメル君」

「なんでしょう?」

「師匠やヘルメス兄上が言っていたんだけれど、トテモカタイクッキーはここでは売らないのかい?」

「へ?」

「あれ、クセになるってきいて……」

「ええと、宜しければこちらのクッキー詰め合わせ大箱がありますので、そちらにも入ってるのでお納めください」

「いいの!?」

「あと、トテモカタイクッキーだけの小箱も渡しておきますね」

「!?」


 キラッキラな瞳で感謝されたよ。

 トテモカタイクッキー。確かに美味しく作ってるし一欠けら口の中に放り込んでおけばいい暇つぶしになるけどさ。

 じいじのヘルメス叔父上もどんな紹介したんだか……。


 バルと呼んでくれ、と言われたのでバル叔父上と呼ぶことにし、本人はほくほくしながらクッキー箱を馬車にのせて王都へ帰っていった。


 後日、正式に運行ギルドからトテモカタイクッキーを大きめの駐車場にある販売店で取り扱いたいとの申し入れがあったので、アリス以下数人の料理人とメイドで大量生産の体制に入ることになるのである。

 門外不出のレシピってわけじゃないんだけれど、これ、魔王時代の思い出のお菓子だからさ……。

 出来れば自分や関係者で作りたいんだよね。

 その分、仕入れはほぼ原価にして、お安く提供してもらうようにお願いした。


 トテモカタイクッキー。

 想いでの味です。

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