第5話◆元魔王・領地経営する5


 さてと、パパからOKを貰ったし、王都からカフカ領を通ってライズ領、その端っこの海沿いの森の中に新しい駐車場を作ることになった。

 ので、早速王都で一泊してカフカ領に対する計画書と提案書を作成する。

 お供は安心安定のテス。

 テスはどちらかというと一か所にとどまるよりもあっちこっち行く方が性にあっているらしく、僕が遠征の度に付いてきてくれたり、自分から遠征任務に志願してきたりする。

 今回も、パパにプレゼンするために王都に行く、と言ったらついてきてくれた。

 出ずっぱりだけど疲れないのかな?


「ふむ、こんなもんかな」

「どれどれ」


 僕が地図を見比べて作成した地域活性&駐車場作成のための交通計画書をテスが覗き込んだ。


「カフカ領のここの街道なんだがな?ちょっと距離がありすぎるって話を聞いたぞ。足の速い個人旅でも朝一からでて夕方着になるようだ。その間は休憩所に使っているらしい跡地はあるんだが、移動手段がないとロスがでるってさ」

「あ、ほんとだ。この街道、なんでこんなに長いの?」

「ちょうど中間地点なんだよ、両領の。だからどっちかが駐車場を作ってくれるだろう待ちしてんじゃないかって」


 テスが指示した場所は一本の街道があるが、よく見るとほんとに距離の中間地点が領の分け目だった。

 一応行商人は馬車を使うのでさほど問題にはならない距離ではあるが、徒歩だとつらい距離だ。


「ならウチの手前で作っちゃう?」

「そうすっと向こうさんに金はいらんだろう?」

「あーそうかぁ」


 合同出資が出来れば楽なんだろうけれど、その場合細かい調整が必要になる。

 森の方をメインにやりたいので、さくっと終わらせる……あ。


「上下線別で作ればいいんじゃないかな?」

「上下線?」

「えーと。日本にいたころサービスエリアってのがあってね……」


 ということでテスに一通り説明したところ中間地の街道の左右にカフカ領、ライズ領の小規模駐車場を作ればどうだろうか、という提案書も作成できた。

 てことでこれを持ってカフカ領の領主さん、エクセル・カフカさんとこにレッツGO!




 ◆◇◆◇◆



 カフカさんちは全体的に茶色のお屋敷で翡翠色の屋根なのですぐわかる。

 本来なら先触れを出しての訪問になるのだが、王都の冒険者ギルド経由でカフカさんにお伺いを立てた所、いつでもきてOKというお返事を頂いた。

 わりかし気楽に会ってくれるひとなんだよね。

 パパも昔に世話になった人でもあり、じいじの何番目かのお弟子さんだという。


「いやー!ライズ領に来た時の挨拶以来だね、メル君。いつでも遊びに来ていいんだからね?現国王……サリの子なら僕の甥っ子でもあるんだから!」


 という、どっかできいたセリフをまた聞いた。

 じいじのお弟子さんたちって、兄弟弟子にもその子等にも特別愛情注いでるからほぼ親戚のおじちゃんおばちゃん、従兄弟みたいな付き合いが多いんだよね。

 じいじもせっせと孫扱いしてる弟子の子等に毎年お小遣いと果樹園で取れたフルーツセットを贈っているし。


「ご無沙汰しております、エクセル叔父上。突然の訪問に快く迎え入れて下さり感謝いたします。こちら、護衛のセレンテスです」

「いいよいいよ。メル君が来るんだもの、仕事なんかさっさと終わらせちゃったよ。君がテス君だね。メル坊の護衛としても優秀だって聞いてるよ」

「ありがとうございます」


 邸にいるときは僕の側で仕事をしている所を見ているテスが、エクセル叔父上の言葉に驚愕している。

 領主ってね、ほんとこまっちけぇ書類仕事ばっかりなんだよ。

 それこそ朝から晩までかかることもあるんだけれど、それをさっさと終わらせたっていうエクセル叔父上の言葉は、有能っていう言葉だけでは説明つかないくらいなんだよねぇ。

 見習いたい……その書類裁きを……。

 内政向き元魔王がちょっと自信を無くしておるよ……。ふふふ。


「今日はどうした?お茶を入れるから中庭で話そうか。今だとラーテの花が咲いてるよ」

「ラーテですか。【水薬ポーション】にも使えるので少し分けて頂きたいです」

「いいよ、何株か予備があるから、パレットごと持っていきなさい」

「ありがとうございます!」


 ラーテの花は別名氷凜花フロスフルと言われ、氷属性の花なんだよね。

 開花は初夏あたりだけれど、うまく温度調整をすれば1ヶ月は開花を遅らせられ、鉢植えを部屋に入れておけば少しは涼しくなるので重宝される。

 そして、その一大産地がこのカフカ領で、ラーテの花を栽培して増やし、薬草としての価値を上げたのがエクセル叔父上なのだ。

 じいじのお弟子さんの中でも魔法草の栽培や魔法薬の精製に特化した人。

 ラーテの花を原材料にした【氷水薬アイスポーション】は熱帯・火山地方へ行く冒険者に重宝されている。


「それで、何か面白い話があるんじゃないか?」


 ラーテの花が咲き乱れ少し涼し気な気温のか、庭を一望できるカゼボでお茶を頂きながら、エクセル叔父は切り出した。


「はい。今度うちの領の海沿いの森の中に、メイン街道にも行ける迂回路を作る予定なんですよ。で、そこに私設で駐車場を作ろうかと。それと同時に、両領を繋ぐ街道が長くて徒歩での旅がきついという話を聞きまして……」

「ふむふむ……」

「ということでこんな案を……」

「ふむふむ……」

「ここをこうして、こんなふうにすれば……」

「OKOK。それでいこうか!」


 とりあえず、提案書と計画書の控えを渡しておいたので、後日精査したうえでまた話し合う事になった。

 十中八九OKなんだけれど、エクセル叔父上はここぞとばかりに僕に構いたいようだ。

 なにせほら、僕、兄弟弟子の子供でいうと末弟扱いなんで……。

 可愛がられるには十分な理由なんですよ……。

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