第2話◆元魔王・領地経営する2
家族……僕とアリス、ソルティ、グラティ、リーチェで朝ご飯をのんびり食べていたら、食堂の扉がガチャリと開いた。
「戻ったぞ!」
「テス!おかえり!」
「兄さん、おかえりなさい」
「テス、ご苦労様でした」
「テス兄ちゃん、おかえりなさーい」
とそれぞれがテス……セレンテス・マインズバウアーの帰還を喜んだ。
僕がパパの爵位を継いでライズ伯爵になった時に、今まで僕の護衛をした功績をたたえられ、マインズバウアーの姓と一代限りの名誉騎士爵を賜った。
「俺は何もしてないんだがなぁ。メル坊は手が掛からなかったし」
とはいうものの、旅の最中何気に僕の前に立ってくれたり背を守ってくれていたりする。
その辺の恩義はあるし僕からも何か……と思ったけれど、テスは察して先に辞退を申し出た。
「なんか貰っても管理できそうにないしな。だったら、メル坊のとこで使ってくれや」
妹であるリーチェが心配なのもあるだろうし、その意を汲み、僕は特殊私兵としてテスと個人契約を結んでいる。
一応領を守る私兵はいるけれど、僕個人の頼みだとか、一人の方が任務遂行に有利な場合はお願いしていた。
今も領地の端っこで沸いたブラックオーガの調査をお願いしていたのだ。
「ブラックオーガはどうだった?」
汚れた格好のままテーブルに着いたテスだけど、それに文句を言う家族はいない。
テスはこの領地、それに呼び寄せた妹や弟たちの為に戦ってくれているのだから。
「あんま大したことなかったかな。ブラックオーガを筆頭に、ブルーオーガ20体、レッドオーガ10体、その他オーガ、オーク。ゴブリンが共同集落作ってたから、潰してきた。あ、ここに全部入ってるからあとで解体倉庫にもていくな」
「ありがとう。どうしても端っこまで目がいかないし、あの辺りは人がいないのもあるから、隠れ集落にはもってこいだったんだろうなぁ」
「めったに見ない混合集落だったからテンション上がったんだが、オークキングが発生していれば命令系統は違ってたんだろうな。ブラックオーガも知性高い個体だったからか、上位種になりかけてたのは間引いてたみたいだ。集落の裏に捨て場があったぞ」
「げー、そのブラックオーガが進化しないでよかった。改めて有難う、テス」
「いいってことよ」
テスは運ばれてきた和朝食……魚の照り焼きと副菜3種、ご飯とお味噌汁のセットを食べながら手を振った。
それでは疲れが取れぬだろうと、僕は【
「お、いいねぇ」
テスはご飯のおかわりを頼みつつ、淹れた緑茶で喉を潤わせた。
「あの辺、海に近いからできれば貿易中継所か何か作って兵を派遣しても良さそうだぞ。戻ってくる途中、行商人がそんな事いってた」
「あー。あの辺近隣の領からの道もあるけど、休憩場所らしい村とかないもんねぇ」
「メイン街道からも外れてるからか、駐車場もなきゃ道が整備されてるわけじゃないしな」
「テス、その辺の報告書も作ってもらえる?あとで僕が直接見てくるよ」
「おう」
そうしてご飯を食べ終わったテスはゆったりと風呂につかり、遠征の疲れを癒した。
◆◇◆◇◆
テスとリーチェの家族は今僕の領で暮らしてもらっている。
哀しいことに僕とリーチェ達が旅をしている間にご両親は他界していて、妹と弟3人を二人が呼び寄せた。
一応、3人とも成人はしているのでテスに与えた小さな屋敷と使用人と共に暮らしている。
それぞれに剣術と魔力適正もあったのでその勉強や鍛錬をしてもらっていて、その後どうするかは個人に任せるようだ。
ぶっちゃけ、剣術や魔力の適性が無くても読み書き四則演算さえクリアできれば職はあるのがこの世界だ。
度重なる勇者召喚による、勇者様の世界の知識の恩恵によりちょっとずつ平民の識字率も増えて行っている。
あとは本人次第、となる。
「は?弟君、剣戟飛ばしたの???剣術習ってまだ半年も経ってないのに???」
「そうみたい。セレンフート……セフもびっくりしてたみたい」
「双子の妹ちゃんのほうは?」
「リリケルは同一案件の何人かの報告書をまとめるのが上手って冒険者ギルドの人が褒めてたわね。ギルマスの書類の手伝いもしてるみたい」
「末妹ちゃん……ヘキサクローネは?」
「ロネは……先日拳で壁壊したって」
「拳で壁……」
マジですか?
なにそれ、テスとリーチェの兄弟おかしくない??
夜の寝室でゆったりしてたら、リーチェが兄弟のことで相談があると言ってきたので聞いてみたらとんでもなかった。
「うーん。今のところセフとロネには専属の師匠を付けるとして、リリは基礎マナーと代筆の勉強と文官の資格試験を受けてもらおうか。じいじや叔父上、王都本部のオーウェンさんにお願いすればいけそう。やる気があるなら打診してみるって伝えといて」
「ありがとう、メル君」
「いいって。僕の兄妹になったんだしこれくらいは」
それに、あの三人にはグラティも遊んでもらってるし。
「あ」
「なに?」
「いま、ポコって蹴られたわ」
「元気だねぇ」
「そうね」
ふふふ、と僕らは互いにほほ笑むのだった。
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