-3-

「今日はヤケに警戒するじゃないか」


私は少し遠くに来て座った黒猫に言った。

彼は、少しだけ毛を逆さ立ててこちらをじっと睨んでいる。


「何もこの町に来てから人を殺したのは初めてではないだろう?ああ…そうか、その匂いがついたままだったかな?血と硝煙の匂いがね」


私はその猫の方へ体を向ける。

そして肩を竦めて苦笑いした。


「何もやりたくてやったわけじゃない」


私は一向に警戒感を解かない彼を何かに見立てて語り掛けた。

猫は、警戒を解かないながらも、少しづつ近づいてきている。


「こうでもしないと生きてけなかったのさ、今回のは例外だけどね?流石に血を見るのに慣れすぎた」


私はそっと彼の頬に手を伸ばす。


てっきり払われると思ったが、思いのほかすんなりと受け入れてくれた。


「君と会った日の私と、もう違う」


そう言って、少しのほほえみ交じりの表情で、彼をそっと持ち上げると、私の傍に持ってきてちょこんと座らせた。


「あの日の私はどんな顔してたっけか」


私はずっと彼の背中を撫でまわしながら言う。


「これで終わりだとは思わないけどさ。もう逃げられはしないんだ」


「でも、ここで半年…普通の人の暮らしをしてもいいと思うよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る