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由紀子の家に泊まった次の日。

私はいつものワンピース姿ではなく、小さな赤い鞄を手に持ち、白いワイシャツにジーンズ姿でバス停にいた。

岸壁に座り、すっかり顔なじみになった黒猫を横に座らせて…猫を飛ばしたその横には由紀子がいる。

そして、由紀子から転校を告げられた面々が、気持ち落ち込んだ様子で前にいた。


「で、こんなギリギリに言った由紀子を遊び疲れさせるのが今日の目標」

「……お前もな、あんな変な怪文書送ってないで、言ってくれればいいものを」


私が今日の目的を告げると、浩司が頭をかきながらあきれ顔で言った。


それから、私達はいつものように騒ぎながらバスを待つ。

普段は少し離れて彼らを見ていた私も、今日はその輪に入っていった。


そして、今日2本目のバスが来る。

乗客は私達しかいない。


いつかの花火を買いに行った時のように、一番後ろに陣取って、雑談に話を咲かせる。


だけど、私は適当に相槌を打つだけ。

明るく話す彼らのようにはなれなかった。


「そういえば浩司、どう?調子いい?」

「ああ…昨日は一段と疲れたよ」

「ゴメンね、その日には学校だから…」

「いいさ、どうせ夜中にやって、町の人間は見れないんだと」


私は彼らの話が例大祭になったのを期に、口を開いた。


「そういえば例大祭って、何やるの?」

「あー、夜までは普通の祭りと変わらんぜ?普通に露店が出て、ま、この前の夏祭りほど広くはないが…」

「そーそー、去年は義昭が…」

「よせ!加奈」


何かを言いかけた加奈を義昭が止める。

浩司はそんな彼らを見てクスリと笑う。

普段みたいな、無邪気そうな笑顔ではなく、どこか影を感じさせる笑顔だった。


小樽について、最初に向かったところは、あのデパート。

だが、彼らは別行動だ。


私は彼らをそそのかして、映画館に行ってもらっていた。

小樽は、東京から少し遅れているから…今なら丁度怪獣映画をやっている頃あい。

今朝、新聞でちゃんと確認した。


私は一人来たデパートで、先ほど彼らと別れた際に言った言い訳を思い出す。

ちょっと学校で使うノートが切れていたとか言って、我ながら下手なだまし文句だ。


由紀子に何かをあげよう。

だけど、時間はない。


向かった先は小洒落たファッションの店。

店員のよく言う決まり文句を聞き流し、店を見回す。

私はパッと目についた、水色のカチューシャと、しっかりとした作りの時計を手に取った。


こういうものは、きっと最初の勘に任せるべきだ。

そして、私は支払いを済ませて店を出る。


品物は鞄の中へ。

私は特に慌てるわけでもなく、先に行った彼らを追いかけた。


「お待たせ」

「早かったね」


私が声をかけると、由紀子が振り返って言った。

それにつられて全員が私に振り返る。

浩司はいないようだ。


「ノートだけだし…チケットは?」

「あー、千尋の分は浩司が出してくれてたな」


義昭がそう言うと、顎を明後日の方向に向けた。


「向こうで食べモン買ってくるってよ」

「そう…」


私はすまし顔で頷くと、丁度浩司がポップコーンの容器を3つ抱えてやってきた。


「千尋、早かったな」


そういいながら、3つのうち2つを加奈と由紀子に渡す。


「ノートだけだしね…ところで」

「何だ?」

「この量を3つって、食べきれると思うかな?」


私は浩司が持ったポップコーンの容器を見つめていった。


「いけんだろ、最悪、俺と義昭で片付けるさ」

「え?俺?」

「ああ、千尋とかに押し付けるか?」

「いや、いい」


彼らは少しの間にらみ合っていたが、私はそれを見て口元を震わせる。


「フフ…じゃ、行こうか…席とって、これを食べてよう…お昼はいらないかな?彼のおかげで節約できた」


そう言って、浩司の背中をたたいた。

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