-3-
「何時だ?」
「1時、まだまだ時間はあるよ」
映画を見終わった私達は外に出て、駅前の交差点にいた。
「私さ、少し行きたいところあるけどいいかな?」
加奈が由紀子を見ていった。
「いいよ、どこかな?」
由紀子は優しく答える。
「水族館…昔親ときて…ショーが凄く面白かったの」
「ショー?」
「そう、イルカとかがバーッて飛ぶの!」
「なら見に行ってみるか、まだ1時だろ?まだ間に合うかもな」
そうして私達は水族館に移動してショーを見ることにした。
水族館に行く途中で2つの使い捨てカメラ買って、1つは私が、1つは浩司が持って写真を撮って周ることにする。
加奈の提案のショーは3時からで、丁度良かった。
早めに行ってプールの前に陣取ると、見る見るうちに席が埋まっていく。
夏休み終盤だから、家族連れも多かった。
「千尋、加奈、由紀子こっち振り向け撮るぞ」
待っている間、じっとプールの方を見てイルカを眺めていた私達は、浩司の声に振り向く。
仲のいい3姉妹のようにポーズをとると、カシャっとした音とともにシャッターが切られた。
「千尋、少しは笑えよ?お前だけ不気味だぜ?」
浩司は苦笑いを浮かべていった。
「む、ならもう一枚。驚くがいいさ。ね、由紀子、加奈」
私は由紀子と加奈を引き寄せて顔を下に向ける。
表情を作ることに慣れていないが、できる限り笑ってみようか。
「いくぞー」
浩司の声とともに顔を上げて、できる限り笑顔を作ってレンズを見た。
決めポーズとして、レンズに指をさして、首をかしげる。
浩司の横にいた義昭が少し顔を赤くしたからきっと成功だろう。
「なんだ、そんな顔できるじゃねーか」
「…とっておきは最後に取っておくものだよ」
私が少し調子に乗って言うと、丁度場内のアナウンスが流れ、ショーが始まった。
暫くイルカが飛び跳ねるのを眺めて、何度か水もかけられたりして、ショーを楽しんだ後は、薄暗い館内を回り、いつものように浩司を筆頭に盛り上がる面々に付いていく。
私が手に持ったカメラで、その様子を切り取って私も笑う。
この町で得た"表情"で私も輪の中に混じって笑っていた。
「次は何処に?」
「知らない。ただ体の向いた先に」
由紀子の言葉に、私は敢えてそっけなく答えてから、そっと寄り添う。
その様子を見ていた浩司が何も言わずにカメラを構えた。
私達は気にすることなく写真に収まり、私は小さく笑って見せる。
道順を決めてしまうと、徐々に終わりが近づくのが見えるから。
時計の針は一刻と帰りのバス時間に迫っているが…
今はそれを気にしたくはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます