7.ナイト・ウォーカー
-1-
友和に再開した次の日の、朝4時。
私は昨日、彼と会ったトンネルに居た。
今の私は半袖の白いワイシャツと、黒いスカート姿。
ベルトは、昨日準備した革製のベルトだ。
そして、その上に、薄手のジャケットを羽織る。
そうすれば、予備弾倉はジャケットに隠れる。
ハイパワーは腿に括り付けているから、スカートで見えない。
私がトンネルに入ると、先に居た友和が黒いスポーツカーのエンジンをかけた。
バックミラーで、私が来たことを察したのだろう。
私は、助手席のドアを開けて、中に入る。
ドアを閉めると、彼は何も言わずに車を出した。
「この車はなんていうの?」
「日産フェアレディ2000、5年前の車さ」
「らしくもない。目立つでしょう?」
「暗けりゃ関係ないさ」
朝日が差し込む日向町の商店街を通り抜ける。
私は、そろそろ本題に入ろうと、ポケットから昨日拾った空薬莢を取り出して、3本のうちの2本を灰皿に入れた。
「それは?」
「昨日、たまたま従兄の彼と、祖父が死んだ場所に行った。彼は川で死んだって知らされてるから、そんなことは夢にも思ってないだろうけど」
私は手に持った薬莢を友和に渡す。
彼は一瞥すると、それを灰皿に入れた。
「ほう…聞こうか、俺もお前の祖父が見つかった場所しか知らされていない」
「花火大会があって…始まる直前に銃声が聞こえた…それを聞いて、音の方向に向かって行くと、祖父が倒れてた」
私は窓を開けて、窓枠に頬杖をついた。
車は、すでに町を1つ超えるころだった。
「その時、祖父が倒れていた方から2人の男が向かってきたけれど、隠れた私に気づかずに去っていった。彼らでしょうね、祖父の遺体を川に捨てたのは」
「祖父が倒れてる。死んでるのを確認したら、すぐに町に引き返して、公衆電話から警察に電話を掛けた」
「ま、彼らが向かったころには、すでに運ばれていたか…そもそも動かなかったでしょうけど」
私は淡々と事の顛末を話す。
「で、殺ったのは誰だ?」
「祭りで、射的屋を開いてた男と、サイダーを売ってた屋台の男。名前は知らないし、見たこともない」
「ああ、それだけで十分だ、調べさせる」
「あの町に6部署の人が?」
私は少し驚いて彼を見た。
少なくとも、私は部署の人間を全員記憶している。
すぐにわかるはずだ。
「富岡って名前の教授…彼は外部協力者さ」
「え?あの男が?」
「知り合いか?」
「ええ、彼との会話で、例大祭について調べてた……」
私はノロそうな、か弱そうな教授の顔を思い浮かべながら言った。
「くく、ま、彼にはお前のことを知らせてない。偶々が重なっただけだが、丁度よかった」
「そのようね。それで、例大祭のことだけど…それはこのメモに書いてある」
私はそう言って、ワイシャツの胸ポケットからメモ用紙を取り出して、それを灰皿に入れた。
「早いな」
「夏休みだし…で、今日私はどうすればいいの?」
「簡単な話さ。一人の男を消してもらうだけ」
「殺しを簡単に言わないで」
私は少しの嫌悪感を出して答える。
だけど、拒否権はなさそうだ。
「朝の、小樽港。そこの一番端の船だ…この時間には1人しかいない、すぐにわかる」
友和は気持ち早口で言う。
これ以上は詮索されたくないのだろう。彼の癖だ。
「…わかった」
「1週間かけて、主要な人間は消すつもりさ。じわじわ一人づつ」
彼はそう言うと、それっきり口を開かなくなった。
それから30分。
車は小樽の市内に入る。
ドブの臭いが鼻につく、運河沿いの公衆電話機の横に車が止まる。
「30分だ」
「了解」
私はそう告げると、ドアを開けて潮風の来る方へと歩いて行った。
今は朝の5時。
まだまだ町は眠っている。
と言いたいが、港の朝は早く、チラホラと人がいる。
何人かは、不釣り合いな私に視線を向けた。
だが、私に話しかけてくる人は誰もいない。
遠くでは、遠洋の漁に出る人の見送りなのか、そこそこの人が見えた。
きっと、その人達の一部だと思われているのだろう。
私には好都合だった。
一度その人ごみの方へと足を伸ばす。
そして、目立たないように立ち去った。
私は歩きながらスカートのポケットに手を入れ、そこから木製のケース兼ストックを取り出す。
目的地は、もう目の前だった。
ケースからハイパワーを取り出し、ケースを持ちての後ろに固定する。
ベルトから消音器を取り出して銃口に取り付ける。
そして、私は目的の船の見える小屋の中に入っていった。
歩きながら見ていた限り、目的の人物は船の中にいるらしい。
彼は窓越しに外を警戒しているらしい。
安全装置を解除し、スライドを引く。
薬室に初弾が装てんされていることを確認すると、小屋の中からハイパワーを構える。
ストックを肩につけて、照準を合わせると、余計なことはせずに、1発撃ち込んだ。
船内に何かが噴き出るのを確認して、周囲を確認する。
港の一番奥の船には、誰も近づいてこない。
どうやら、多くいた人は、さっきの予想通り、遠洋に出る人の見送りだった。
私は空薬莢を拾うと、船に乗り、中を覗く。
頭から血を流した男は、事切れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます