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今日も早起きした私は、洗面台の冷水で顔を洗う。

すぐ横の台所で食パンにスクランブルエッグとベーコンを挟んだサンドイッチを作ると、それを包んで部屋に戻った。


サンドイッチを肩さげバッグに詰め込み、私服に着替える。

そして、麦わら帽子を被ると、居間に書置きして家を出た。


"町を散策しています"


今日は引っ越してきてから2度目の日曜日。

浩司を起こす必要がないので、午前中はこのままどこかに行ってみようかと考えながら、朝焼けの町を歩く。


早朝はどこもやっていないから、私は浜の方に足を向けた。

バス停らへんの堤防に上って海でも見て過ごそう。


そう決めると、私は潮風にかき混ぜられた髪を手で梳きながら歩き出した。


5分くらいでバス停につくと、壁のように立っている塀に上って砂浜の方に足を投げ出す。

バッグからサンドイッチを取り出した。


遠くに漁船が見える景色を眺めながら、サンドイッチにかぶりつく。


腕時計はまだ5時台。

このままここで眠ってもいいくらいだ。


ボーっと眺めていると、初日、私の横に座ってきた黒猫がまたやってきた。


「今日は触らないよ」


私はそういうと、猫の方にゆっくりと倒れていく。

すると、猫も警戒を解いたのか、ゴロゴロと喉を鳴らしながら丸まった。


「成程…」


どうやら彼は縄張りを示したかっただけのようだ。


「……」


猫は丸まったまま、何をするでもなく、私をじっと見つめる。

遠くで聞こえる波の音を聞きながら、そっと目を閉じた。


……次に目が覚めたのは8時半。

ムクリと起き上がると、硬い場所で寝ていたせいか、体のあちこちから痛みを発していた。


「まだ居たの…」


んーっと背伸びして、体をほぐすと、すぐに痛みは消える。

私はまだ横で丸まっていた猫に視線を落とすと、ヒョイと持ち上げた。


今度は逃げるそぶりも見せずに、彼はじっと私を見つめる。


「……」


抱きかかえ、膝の上に乗せたはいいが、特に何があるわけでもない。

少しの間、背中を撫で回すと、猫は勝手に立ち上がって去っていった。


それを見送った私は塀から降りて散策を再開する。

図書館にでも行こう。

ここから30分ちょっとかかるなら、丁度開館時間に間に合うはずだ。


私は帽子を深く被りなおすと、日差しが強くなってきた町に歩き出す。


浜を抜けると、木造の家が立ち並ぶ道に出る。

そこから、もう少し進むと、私の家の近所だ。


「あ、千尋」

「……?」


家の近くまで来ると、誰かの声に呼び止められる。

この声は、由紀子か。


「おはよー」

「…おはよう」


振り返ると、クリーム色の家の影から由紀子が出てきた。

格好は…ほぼ寝間着だろう。


「どこかお出かけ?」

「散歩…さっきまで猫と寝てた」


この町に来てから一番よく話す同性。

口数が多くない私が、一番話せる人だ。


「猫と?どこでさ?」

「黒猫…あっちのバス停のところ」


私がバス停の方を指さすと、由紀子は少しあきれ顔になった。


「向こうは余りいかない方がいいよー浜の男の目線が怖くて」

「…人、いなかったけど」

「まぁ、いる時があるから気をつけなさい…それで、これから何処にいくの?」

「図書館に…」


あてもなく本を読むのは、東京にいる頃の楽しみだった。


「え?図書館?10時からじゃない」

「…そうねの?」


私は少し間をおいてから聞き返す。

この前見たときは、9時~5時だったはずだ。


「日曜日は10時~3時なのよ」

「迂闊」


私は表情を変えることなく言った。

あと1時間。どう過ごすか。


「あと1時間だし、直ぐだよ。…そういえば千尋、今週出た問題集終わらせた?」

「終わらせた」


由紀子はコクリと頷いた私を見ると、パッと表情を明るくする。


「ならさー、図書館行くまでに教えてほしい問題があるんだけど…」

「…それくらいなら」

「やった!ありがと!」


私がそういうと、由紀子は私の手を取り、私を引っ張った。


由紀子に言われた問題は、何てことはなく、直ぐに解き終わった。

そろそろ図書館に行こうと、由紀子の部屋の時計を見てスッと立ち上がると、由紀子も来るというので、私は彼女を待って、由紀子の家を出る。


「本、好きなんだ?」

「楽しみは本か音楽位だったから…」


私は淡々と言うと、由紀子の表情は少し苦笑いになる。


「東京ってさ、もっとこう…遊べるところとか、いっぱいあるのかなって思ってた」

「私が少し特殊だったのもあるけど、遊び場はそうないんじゃないかな」


由紀子と並んで歩きながら、私は言った。


「そっか、テレビで見る東京ってさ、なんか別世界だから…」

「あれはテレビの見せ方…」


由紀子の言葉に、私は素っ気なく返すと、目を細めた。


何処を向いても鉄とコンクリートの塊が見えた街並み。

人も車も溢れかけた光景なんて、上から見てる分にはいいだろうが、いざ中に入ってみると妙に生きづらい。


「なら、こっちに来てよかったって?」

「ええ…そう思う」


図書館につくと、司書と思われる人が入り口付近に座っている以外は、誰もいなかった。

こんな狭い町には豪華な作りの図書館を見て、私は少し驚く。


「去年出来たばっかなんだ」


由紀子が小声でそういうと、私の手を引っ張って大きく開けた読書スペースに誘う。

そこから円形に広がった館内には、細かく分類された本棚が並んでいた。


これだけの量があれば、暇になることもないだろう……

そう思いながら、私はフラフラと本棚の方へと歩いて行った。

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