#7.反省会を男の部屋でするなよ
「それでは! 第一回デート反省会を行います!」
「……なぜに俺の部屋?」
天宮寺とのデートを終え早二時間。
なぜか俺の部屋でデート反省会なるものが開催されていた。
いや、反省会を男の部屋でするなよ。仮にも気になるやつとデートしてきたばっかりだろアンタ。
なんて言葉は胸の奥にそっとしまいこんではいるものの、なぜかドヤっているのには少々腹が立つので、用意されていたお菓子のうち一つをそっと隠しておいた。
と言うか反省会とか言いつつただお菓子を食べる会になってるよな? 明らかに反省会するよりお菓子食べるの目的だよな?
「反省会って言っても、何を反省するんだよ。別に反省するとこないだろ? 少なくとも、俺が見てた限りではだけど」
「陽仁は分かってないなぁ、これだから陽仁は……」
「おい、その絶妙にウザイ煽りを辞めろ。今すぐ菓子取り上げるぞ」
「あぁ!! それだけは! それだけはご勘弁をっ!」
そもそも他人のデートを見せつけられるという地獄のような目に遭わさておいて、なにが「分かってないなぁ」だよ。
明らかに彼女いない歴イコール年齢の人間に求める感想じゃないだろ。
「そもそも! 私は今とても怒っています」
「怒る? 何に?」
「勝手に連絡入れて返ったこと!」
「あ〜、まぁ良い雰囲気だったし?」
「そう言う問題じゃないの!」
じゃあどう言う問題なんだよ。なんて野暮なツッコミをしたい衝動を抑え、なんとか聞き手に回る。
そんな小さいこといちいち気にしていたらこの反省会での発言のほとんどがツッコミになりかねない。いや、実際そうなりそうなんだけども。
「そもそも、俺が見てなくても普通に二人で遊べただろ? 俺はただ男女の眩い青春を見せつけられてただけだぞ?」
「それは別にどうでも良くない?」
「貴方は人の心お持ちでない?」
楓のやつ確実に俺の心を折りにきているとしか思えないっ! 逆にそうじゃなかったら、なんだってこんなにも悪気のなさそうな顔で普通に首傾げてるんだよ。
悪魔の所業としか言いようがない。
「はぁ……まぁ、俺が先に帰った話は置いておいて」
「それは置いておかなくない?」
「お前の基準は一体どうなってるんだ? ……それよりも、別に反省する事なんてなくないか? 普通に仲良くお出かけしてただろ」
「そこだよ、そこが問題なのだよワトソン君」
「うわ〜、こんなにも頼りないホームズみた事ない」
腕を組んでドヤ顔をしている辺りがさらに胡散臭さを醸し出しており、どこからどう見てもホームズの様な威厳はかけらも感じられない。
「それで? 今回のどこに反省点があると?」
「それはズバリ……手をつなげなかった事です!」
「……恋人じゃないんだから当たり前では?」
「こらそこ、夢のない話をしない」
そんな事を言われても、実際恋人じゃない異性と手を繋ぐなんて普通しないぞ? するとしても誰にでも手を出すロクでもないヤツだろうし。
そもそもデートと銘打って入るが、実際二人は付き合ってはいない訳で手を繋ぐまで進んでいるのならそれはもう告白しても良いんじゃないかと思う。
「そもそも、今回天宮寺と出掛けてみてどうだったんだ?」
「どうって……そりゃ、楽しかったけど」
「なら当初のお出かけを楽しむって目的は果たしてるんだ。そこまで反省する必要もないんじゃないのか?」
「はぁ……これだから恋愛未経験者は」
「おう、喧嘩ならかうぞ?」
なんで頼みを聞いて付き合った側より偉そうにしてられるんですかねこの人。
次頼まれても絶対やらんからな?
いや、次があったら困るんだけど。
「まぁ、百歩譲ってそれが今回の反省だとしよう……それ、他の男とする反省か?」
「良いでしょ。別に、陽仁は幼馴染なんだしノーカン」
「ノーカンだとして、例えば天宮寺が同じように幼馴染の女子がいてそいつと今日の反省してたらどう思うよ」
「は?」
「例えばの話だよ。そんなドスの利いた声だすな」
華のJKが出して良い声じゃなかったぞ今の。
確実に相手をやる目してたよ。こっわぁ……
なんて茶番をしてはいるが、実際手を繋げた繋げなかったで反省するモノなのか? そりゃあ、恋人同士の反省としてはなくはないが矢張り付き合っていない人同士の振り返りとは思えない……
「まさか、俺の知らない間でもうすでに告白済ませた?」
「そっ、そんなことある訳ないでしょ!?」
「その反応、普通ならされた人の反応だけどマジ?」
「あ、普通にされてないよ」
「怖いから急に素に戻るのやめて?」
なんで恥じらいの顔から一瞬で真顔になれるの? 表情筋の使い方プロかよ。
天宮寺と楓との間に恋人関係が成立していないのなら、なおさら手を繋いだ繋いでない反省の意味がわからなくなってくる。
まさか、本当は反省ないのに無駄な労力割かせるために反省するフリしてるだけとかないよな?
「というか、繋ぐつながないの話はもう俺のアドバイスとか考えどうこうよりも楓の気持ちの問題だろ」
「でも、一応陽仁は男な訳だし意見を貰おうかなって」
「前も言ったか忘れたが、あくまでもそれは俺の好みとかが主になる。気に食わなくても文句は言うなよ?」
「……善処します」
「そこは善処ではなく確実に頷いてほしいんだけどなあ」
流石に楓もそこら辺は理解しているだろうし、これ以上ああだこうだと言う必要はない。だが、手を繋ぐ時の意見と言われても特にこれと言って思いつくものがない。
女性経験がない上に幼い頃に母親と手を繋いだ時以来手を繋いだことすらない。ある知識と言えばギャルゲで培った付け焼き刃と同じ知識と、申し訳程度の小耳に挟んだ恋バナ。
うーん、どれをとってもパッとしない……。
「無難に恋愛映画とか見てて、いい雰囲気になったところで手を繋ぐとかなんてどうだ?」
「それやるの恋人くらいよ? もっとこう……友達からでも出来るての繋ぎ方とかない?」
「そもそも友達同士で手は繋がんが?」
繋ぐとしても同性の友人だろ? 異性と繋ぐなんて友人の関係ならまずないと言っても過言ではない。仮に繋いでいたとして、男女の友情が成立しているのかもう恋人一歩手前といったところだ。
しかし、楓はある程度天宮寺に恋心を抱いている以上男女の友情は成立は難しいだろう。
「そんなへっぴり越しで望んでたらいつか他のやつに取られちまったりするんじゃないか?」
「ち、ちょっと怖いこと言わないでよ!」
「いや、怖いと言うか実際そう言うのあるだろ? 楓の周りの恋バナとかでも友達どうして同じ人好きだったり」
「な、無くはないけど……」
「そもそもの話、天宮寺は学校で一番といっていいほどモテている……実際一番モテてるんだけど。今はお前が隣にいるから遠慮してるって女子は少なからずいるだろう。でも、仮にそんなことお構いなしにアタックしてくる女子がいるとしたらどうだ? 楓よりグイグイアピールしてくれる奴の方が天宮寺が好みだったら取られちまうぜ?」
天宮寺がモテているのは揺るがぬ事実。
少しでもお近づきになりたいと考えて言い寄ってくる女子がいない訳がない。
このまま楓が友人のような関係を望むのなら特にアドバイスは必要ないのだが楓がそのんでいるのは、恋人の関係。
つまり、楓からグイグイ行かなければ何も進展しないのは目に見えている。
「そうはいっても、自信がないんだから仕方ないじゃない」
「安心しろって。今までだっていろんな男に告白されてきたんだ、自分の容姿に自信を持てって。逆に持ってくれないと俺は泣くぞ?」
「え!? そんなに!?」
「逆に楓で容姿が良くないなら俺はもはや不細工以下の見るに耐えない顔になるってことなんだぜ? 分かる?」
楓の発言はフツメンの俺、ひいては女子の大半を敵に回すようなものだ。俺以外の誰かに聞かれてたら何が起こるか分かったもんじゃない。
「兎に角っ! 俺からできるアドバイスはもっとグイグイ行くって事くらいだ。それ以上を求められても何もない」
「むぅ……まぁ仕方ないか。陽仁の言う通りでもあるし、これからはもっとグイグイ行かないと!」
ようやく決意を固めたのか、勢いよく立ち上がり拳を握るとさっさと部屋を出て帰って行った。
「反省、必要だったかなぁ……」
これにて今日の反省会──終了。
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