第24話 人気者と服選び

「どっちがいいか選んでください」

「いや、なんでだよ。好きなの選べばいいだろ」

「一男子としての意見が欲しいんです」

「俺を世の男子代表にするな」

「とにかく!選んでください!」

 そう言って岩尾は試着室に入って行った。

 ファッションなんて興味ないから感想を求められても困るものである。


「これはどうですか?」

「いいと思うぞ」

「じゃあこっちは?」

「いいと思うぞ」

 あれからかなりの数の服装を見せられた。

「なんで、いいと思うぞ、しか言わないんですか?」

「いや、ファッションとか全くわからないからそれ以外感想が出てこないんだよ」

「じゃあ、どれが好みですか?」

「悪いがファッションにおいて世の男子と同じ感性を持ち合わせてないから、その問いには答えられない」

「翔野さんの好みでいいので答えてください」

 少し岩尾の語気が強くなった。これ以上言い訳を続ければ余計に機嫌を損ねそうなので大人しく従っておこう。

「しいて言うなら清楚系だな」

「好みの服の色などは?」

「めっちゃ聞いてくるな」

「聞けるときに聞いておこうかと」

「白とかそういう明るい系だな」

「なるほど」

 俺の返答を聞いて少し考える素振りを見せる。

「分かりました。次行きましょう」

「何も買わないのか?」

「特に目ぼしいものは無かったので」

「じゃあ、次はどこにするか」

「翔野さんの服を見に行きましょう」

「なんでだよ」

「翔野さん似たような服ばっかりじゃないですか。なので買いに行きましょう」

 事実、部屋着であれば同じ柄のものが多いが特に人に見せる予定もない。見せたとしても岩尾と配達員の人ぐらいのものなので。

「特に困ってないから行かないけど」

「では、翔野さんに似合いそうな服を選びたいで行きましょう」

「お前何としてでも行きたいのかよ」

「自分の服を選ぶのもそうですが人の服を選ぶのも好きなので。特に男性の服を選ぶのは新鮮で楽しいんですよ」

 そう、話す岩尾の表情は生き生きしていた。その顔はどこかで見たことがある気がした。

「どうかしましたか?急に黙り込んで」

「いやなんでもない。行くなら早くいくぞ。もう12時だしこの階フードコートもあって昼飯食べる人で込むかもしれないからな」

「いいんですか?」

「選ぶだけだ。買いはしない」

「選ぶだけでも楽しいから!早くいきましょう!」


「疲れた」

 あの後、岩尾による俺の服選びは昼食を挟み4時近くまで行われた。多少長いのは覚悟していたがここまで長いとは思わなかった。

「お疲れ様です。今日は一日ありがとうございました」

「ほんとに疲れたよ。晩飯は出前でもいいか?疲れて何か作る気になれない」

「いいですよ」

 その後、出前のピザを食べていつもよりも早めに布団に入った。

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