第8話人気者と好物

 体育が終わり教室に戻り着替え終わるととクラスメイトの男子に詰められた。

「おい、翔野お前やたらと岩尾さんと仲良いよな。入学式の次の日には二人っきりでどこかにいくし今日だって同じチームだっただろ」

「別に誰と仲良くしようが勝手だろ」

 めんどくさい奴に絡まれたな。

 そんなことを思い適当に返す。

「お前、岩尾さんを助けたからって調子乗るなよ。あんま俺を舐めない方が良いぞ」

「それは怖いな。話はそれだけか?終わったなら退いてくれ邪魔だ」

「てめぇ」

 敵意丸出しの目で睨んできた時だった。

「どうかされたのですか?」

 岩尾が着替えから帰ってきていた。

「いや何も。ただ、お前を助けたことでちょっと話してただけだ」

「そうですか」

 納得しているようだが岩尾は不安そうな目をしていた。

 本人には言わない方が良いだろうな。

「翔野購買に行こうぜ」

 人が悩んでいるというのに呑気に話しかけてきやがった。

「行かん。弁当あるし」

「つまんない奴だな。仕方ない一人で行ってくるよ」

 飛羅廼が教室を出たのを確認して教室を出て昨日の空き教室を目指す。

 空き教室に着き適当な席に腰をかける。

「やっと着きました」

 そう言って岩尾がドアを開けて入ってきた。

「だいぶ疲れてるな」

「ここに来るだけでこんなに疲れるとは思いませんでした」

「お疲れ様」

「本当に疲れましたよ。何十人に話しかけられたことか」

 そう愚痴りながら岩尾は俺の隣に座った。

 なんでこいつ隣に座るんだよ。

「ここに座ったのは、ここだと廊下を誰かが通っても見えにくいからですよ」

「人の心を読むなエスパーかよ」

「エスパーじゃないですよ」

「じゃあ…」

「メンタリストでもないです。翔野さんが顔に出やすいだけですよ」

 人が言おうとしたことを先んじて潰すなよ。なにこいつ怖い。

「そういえばこれ昨日のお礼です」

 そう言って岩尾が差し出した手にはクッキーの入った袋があった。

「いや別にお礼なんてしなくていい」

「ここで受け取らないなら教室で渡しますよ?」

「ありがたく貰うよ」

「そうしてください」

 ほぼ強制的に受け取らされた。

「翔野さんのお弁当オムライスですか?」

 岩尾が目を輝かせて聞いてきた。

「それがどうした?」

「美味しそうですね。余談なんですが私オムライスが大好物なんです」

「何が言いたい」

「一口ください。その代わり私のハンバーグを差し上げます」

「はぁ、やるよ」

 岩尾の座る席に弁当を置く。

「翔野さんスプーンを貸してください。箸ではオムライスは食べにくいです」

「予備はないんだが」

「翔野さんの持っているそれでいいので」

「それでいいですよって念のためもう一度言うがスプーンの予備はないんだぞ」

「さっきも聞きましたよ。それがどうしたんですか?」

「はぁ、俺はどうなっても知らんぞ」

 スプーンを差し出す。それを岩尾は不思議そうに受け取りオムライスを一口頬張る。

「美味しいです。これお返しのハンバーグです」

 雪芽から弁当とスプーンを受け取り残っているオムライスと雪芽からもらったハンバーグを食べてしまう。

 ハンバーグは普通に美味かった。

 俺がそんなことを思っている横で自分のやったことに岩尾は頬を赤くしていた。

 そのことを俺は知る由もなかった。

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