第5話人気者と昼休み

 昼休みの時間となった。

 その間雪芽が話しかけようとするそぶりを見せたがその全てが周りに邪魔されていた。昼休みの今も例外では無かった。

 俺は弁当を持って教室を出る。そのままクラスがある本棟1階から南棟の2階に向かう。

 南棟の階段を上がって左に曲がり3番目の教室の前に立つ。ドアに手をかけ横にスライドする。

「本当に鍵壊れてやがる」

「よく知ってますね」

 横から声がした。離れていても聞き取りやすそうな透き通った声だった。

「聞いたんだよ」

「だれにですか?」

「先輩にだよ。てかお前のこと囲んでた奴らはどうしたんだよ」

「用事があると言って抜けてきました」

「だろうな」

 そんな事を話しつつ教室の中に入る。無論雪芽もだ。

「なんでお前も入ってきてんだよ」

「ここは、翔野さんの部屋なのですか?」

「好きにしろ」

「はい」

 一人になるのが無理なのがわかり諦める。

 教室に入り近くにある机に腰を掛け弁当をあける。

「お弁当作られるのですか?」

「一応な。そういえばお前、昼飯は?」

 俺の後をついてきていた雪芽の手元にはなにも無かった。

「ありませんよ。忘れたので」

 然も当然のように伝えてきた。

「昼飯食べなくて大丈夫なのか?」

「はい、それほどお腹は減ってないので」

「ぐぅー」

「…」

 鳴った清々しいまでに腹の虫が鳴いた。無論雪芽のである。

「一つやるよ」

 俺は、弁当を差し出す。

 幸い今日の弁当箱の中身はサンドイッチのため別けやすかった。

「…ありがとうございます」

 雪芽はそれを恥ずかしそうに受け取る。

 その時の雪芽の頬は薄く赤くなっていた。

「ふっ」

 そんな姿を見ていると思わず笑いが込み上げてきた。

「笑わないでないくださいっ!」

「すまん、思わず」

「仕方ないじゃないですか」

「お前そういう所は可愛いのな」

「日頃は可愛くないと言いたいのですか?」

「いやそうじゃなくて。日頃はなんか人形みたいだけど今みたいなとこは普通の可愛い女子高生みたいって思ったんだよ」

「褒めても何も出ませんよ」

 そう言うと雪芽はそっぽを向いてしまった。

「まさか照れたのか?普段から可愛いとか言われてるだろうに」

「照れてません」

 そう言う雪芽の顔は耳まで赤く染まっていた。


「翔野さんはこれから昼休みはここですごすつもりなのですか?」

 昼飯を食べ終わると不意に雪芽が切り出した。

「まあ、そうだな静かだし」

「良かったら昼休みは私もここで過ごしてもいいでしょうか?」

「好きにしろって言っただろ」

「ありがとうございます」

 最近こいつに対して甘すぎる気がする。

「来てもいいが他の奴らは来させるなよ。うるさくなるから」

「分かりました」

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