FILE:19-15 ―― アビス攻略戦 ファイナル②

 斬撃を防ぐ手段を持たないアビスは斬られる一方。刃を躱したとしても、鷹邑のキックで体勢を崩される。

「良い連携だなァッ! 」

「口より手を動かせ!」

 左門の刀身は脇腹から肩へ、鷹邑のローは膝に連続して入る。痛覚の無いアビスであっても、筋肉が絶たれ関節が破壊されればまともな攻撃カウンターを打てない。再生はされるが、反撃できないまま戦いが進む。

 しかし持久戦になれば、確実にゾンビの増援との物量差で敗北は必至。アビスのされるがままの態勢も、それを理解しているかのようだった。

――ジーニアスを追う公孝と新沼。

「敵のランチャーは対アビスの切り札になります。決して撃たせないように」

「分かってますって! 」

 ロケットランチャーは、射撃態勢に入ってから照準を合わせ、発射するまで十秒ほど無防備になる。よって、的確に銃撃を浴びせ、その隙を作らせないことが必須。

「畳み掛けましょう! すぐにケリを! 」

「それも分かってますって! 」

 どちらの戦闘も拮抗状態。

 恐らく、人間側にとってもゾンビ側にとっても、先に援軍の到着した方が、一気に勝利の天秤を傾けることになる。

 そして、その天秤は彼によって傾けられる――。


〝―― ごめん、桃田さん〟

「なんや。コウジ君。はよ来て埴の奴殺してくれん? じゃないと戦争終わらんで」

〝ごめん。やっぱり左門の、皆の所に戻るよ〟

「本気で言っとる? 」

〝親父が死んで、今の僕は伊形のボスだ。アビスと戦う部下を差し置いてそっちには行けないよ〟

「……そか。終わったら来てな」

〝分かった〟

「ほな」

「君の頼みの綱は来ないって?」埴が苦笑する。

「みたいやな。お前のアビスちゃんもんで」

「あの個体は秘蔵っ子だからねぇ。上手いこと戦ってくれるといいんだけど」

「えらい余裕やな」

「まぁね。殺されたくない側より殺したい側の方が強い。この東京の戦局を見ても分かるけど、君たちが拮抗してると思ってるのは極々一部。現実は凄惨なものだよ」

「なんや……そんなことかい」

「そんなこと?」

「そんなことや。ボクは脅されてここに来た。キミを殺せって言われてな。それさえできれば後は知ったことやない」

「そっかぁ。じゃ、達成されそうだね。沢山の犠牲を出して、本当に沢山の犠牲を出して、やっと達成できそうだ」

「減らず口叩けんのも今の内や」


―― 皇治はフルスロットルでバイクを駆る。向かうは共有された左門の位置情報。

「(これ以上死なないでくれ、誰も……! )」





少年が決着へはしる。次回へ続く。

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