FILE:19-16 ―― アビス攻略戦 ファイナル③

 東京各地の悲鳴は止みつつある。

 どこもかしこも、戦闘が終結に向かっているのだ。

 高速道路の戦いは、アスレチックとジーニアスの特異個体だけを仕留め、残ったゾンビは東京に受け流す形で戦略が展開している。

 霧雨と五月雨は、現れたアスレチックを葬り去ったが、シャビを失ったショックによって、しばらく戦闘不能に陥った。

 アスレチック六体を足止めした馳芝茉央の警官隊は、多くの死傷者を出しながらも、三体を撃破。そして、皇居から大きく引き剥がすことに成功した。

 残るは、鷹邑達が戦うアビスとの決戦のみ。


――左門の刀身が欠ける。

「……ボスに詫びねばな」

 それを道に投げ、徒手空拳へ移行。

「お前の拳が効くのかァ!? 」

 鷹邑が煽りながら、アビスの手刀の刺突を間一髪で回避。その腕を小脇に掴み、伸びきった肘関節を左門が踵落としで踏み抜く。

「拳が効かんなら脚だ」

「上々! 」

 折れた肘関節は、咀嚼のような音を立てて、これもまた再生する。だが、それを悠長に待つ二人ではない。

「そォらよッ! 」

「フッ! 」

 二人の強力な前蹴りが鳩尾に入り、アビスは横たわる象の頭部に叩きつけられる。また起き上がり二人に向かおうと数歩踏み出したが、不意に脚を取られて倒れ伏した。


…………ォォン。


 象の命はまだ尽きていなかった。

 彼の鼻はアビスの脚に巻きつき、アビスはそれをむしり取ろうと試みたが歯が立たない。象の鼻は数百キロの大木でさえ持ち上げる。簡単に剥がせる代物ではない。

「釘の代わりだッ!! 」

 左門は刀を拾い、倒れたアビスの背中からアスファルトまでを貫き、まるで標本のように固定してみせた。


「――行ける! 追い込む! 」

「ラジャァっ! 」

 公孝と新沼は、イケモチとアスレチックが逃げ出すほどに負傷させていた。ここを逃げられれば、いよいよアビスを殺せなくなる。

「走れ全力でぇッ!! 」

「走ってますってぇッ!! 」

 だが、アスレチックの逃走劇は続かなかった。


「当たれぇぇええッッ!! 」


 アスレチックの側面からしたたか突っ込んできたバイク。それは衝突と同時、乗っていた少年を投げ出して、道路に輪転する。

 アスレチックはその衝撃で起き上がる能力を失ったのか、這いずって公孝らに背を向けた。イケモチも振り落とされ、逃げ道を探すように周囲をあたふたと見渡す。

 それを見逃す公孝と新沼ではなかった。

 数発の銃声の後、イケモチの頭に風穴が開く。

 アスレチックもまた、あえなく二人によって蜂の巣にされた。

「ランチャーを奪って戻ります。あの青年の救助を」

「はいっ! 」


――公孝が鷹邑達の所へ戻ると、象の鼻が今にも剥がされようとしていた。鷹邑は集ってくるゾンビを蹴散らし、左門は刺した刀が抜けないように必死に抑えている。

「どけ二人ともッ!! 」

 それを聞いた二人は、馳芝へ向かうようにアビスから距離をとる。

 アビスはようやく鼻を剥がし、血を吐きながら刀も抜かずに起き上がるが、もう後の祭り。

 アビスが最後に見た光は、太陽を彷彿とさせるほどに眩しかった。鎖骨あたりに砲弾がめり込むと、爆炎とともにアビスの意識は四散し、焼失。


 アビスへの、ロケットランチャーの直撃であり、鷹邑達の勝利であった。





―― 最終回へ続く。

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