FILE:19-9 ―― あなたに会いに

「―― 滑稽だな」

 左門は、四肢を全て斬り落としたアビスの遺体に唾を吐いた。彼女はそれほど大きな傷を負っていない。そして、超再生の無いアビスに、やはり切断は有効だった。

「手も足も出ないとはこの事か。肩慣らしにもならん。皇治様、次へ行きましょう。戦える者は車に乗り込め」

「あ……行きます」

「私も……」

 柄木や飯島も、拳銃の残弾を確認しながら二人についてくる。残った人々は、脱出した避難民を追って別の出口から移動することになった。

 外に出ると、皇治は車ではなく、路肩のバイクに跨る。

「どうされましたか? 」

「桃田から連絡があった。皇居に来いって」

「私はどうすれば」

「親父からの連絡が途絶えた。多分殺されたと思う。その仇討ちを頼む」

「……承知しました」


――法定速度を無視しまくって東京に着いた鷹邑は、真っ先に伊形組事務所へ向かった。

 そして、オフィスに横たわる鉞の遺体を発見する。

「組長」

 アドニスもその死臭を嗅ぎ、尻尾を垂らして切ない鳴き声を洩らす。

「この傷み方は……アビスって奴だよな。普通のゾンビじゃこんな痕つかねぇ。他の連中はどこ行ったんだ」

 鉞のポケットを探ると、そこにスマホが入っている。画面はヒビ割れていたが、電源はついた。だが、パスワードのせいでそれ以上進めなかった。

「しゃあない。人の多そうな場所を当たってみよう。行くぞアドニス」

「ばうっ」


―― 満身創痍のB分隊は、何とかヘリを超高層ビルのヘリポートに軟着陸させることに成功した。

「絶好のスポットになる。ここから狙撃する」

「では私はスポッターを」

 迫田とパイロットの二人は屋上に狙撃部隊として待機。レンジャーの新沼と公孝は、ビルを出て特異種の掃討に向かう。

 その公孝が思うのは。


「―― 茉生さん、多分、俺たち」

「分かっている。この戦いは負け戦だ。銃も車も通用しない以上は手の打ちようが無い。

 作戦を移行させよう。敵を撃破するのではなく、敵を引き付けることでこの戦争が終わるまでの時間を稼ぐ」

「ラジャー」

「あくまで皇居には誰も行かせるな。応援も呼んである。それまで持ちこたえよう」

「あいよ……皆、気張れーっ‼ 」


―― 左門は鉞を屠ったアビスを捜索する。

「(アビス。どこに消えた)」

都内にいることは間違いない筈だが、手掛かりが無い。

「(ただ、的確にボスを襲撃したとなると、何らかの指示を受ける知能は持ち合わせているのだろう。次に指示を受けて向かう先があるとすれば)」

 左門は、その最悪の解を閃く。無意識に排除していた可能性。それが達成してしまえば、伊形はすぐに瓦解する。

 左門は後部に乗る民間人たちに言った。

「我々も皇居に向かう」


 そして、鷹邑とアドニスは。

「で、ニュース見たら国会議事堂で戦闘があったんだと。俺らはそこに向かってみる。いいか? アドニス」

「わふ」

「良い返事だ。トばすぞ」





―― 次回へ続く。

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