FILE:19-10 ―― 深淵謁見
―― 埴は桃田に問う。
「警官も来なければヘリも来ない。一体いつになったら君の策は当たるんだろうねぇ」
「いや、そっちはかまへん。呼んだ人間が一人でもここに着いたらボクの勝ちや」
「ほう」
「伊形の息子が残っとる」
「なるほどね。意地でも自分では撃たないわけだ」
「殺しの味覚えたないねん。次からそれで全部解決しようとしてまうやろ」
「確かにそりゃそうだ。けどね桃田」
「何や」
「アビスに出せる指示は一つじゃないんだよ」
「何やて? 」
「伊形の組長を殺してこの街の裏の統制を崩すことは第一目標。でも、その息子が生きてたんじゃ跡を継がれて意味が無い。だから、息子の皇治君も狙うよう指示してあるんだ」
「……ってことは」
「そう。皇治君がここに来るってことは、アビスも来ちゃうってこと。皆まとめて殺されちゃうかもね」
「お前も死ぬやろが」
「僕は君に捕まった時点で死ぬことが決まってるからね。地獄に一人で行くなんて寂しいじゃないか」
「……生まれてはじめて、不覚とったかもな」
―― アビスは都市を縦横無尽に疾駆していた。
目的は、事前にナカムロより受けていた鉞ともう一人、皇治を抹殺すること。
同時に、皇治や左門達は皇居に向かう。
そんな最中に最も早くアビスと接敵したのは、最も遅くこの街にやってきた彼だった。
「アドニス気をつけろッ! 」
常軌を逸した速さで移動するゾンビとキャンピングカーの並走。アビスは鷹邑を気にも留めていないが、鷹邑とあってはそうもいかない。
「(ここで仕留めるか……!? )」
彼の思考に選択が渦巻く。果たして挑んだところで勝てるだろうか? 人生は一度しかない。その命を賭けるべきは、果たしてこの場所なのだろうか?
「もちろん賭けるねェェエッ!! 」
アドレナリン全開のスポーツマンに躊躇無し。
鷹邑は時速八十キロで並走するアビスの横からキャンピングカーを
「来るなら来いよデカブツ! 」
「バウッ! 」
アビスの反撃は速攻。即座にキャンピングカーの後部に取り付き、後部ドアを剥がして車内の一人と一匹を視認する。
「はえぇよ馬鹿ッ! 」
鷹邑はブレーキをベタ踏みしながらドアを開け、アドニスとともに飛び出す。そして、鷹邑の秘密兵器が爆裂した。
「いざって時に自爆装置も付けてたんだぜ。ゾンビ野郎」
鷹邑が懐からリモコンを出してスイッチを押すと、キャンピングカーは木っ端微塵に爆発する。轟音をあげて噴煙が立ち上り、衝撃波で鷹邑とアドニスの毛がなびいた。
「馳芝って警官に貰ったリモコン爆弾が役に立った……あ」
このアビスは超再生の能力を持つ。例え爆発に遭ったとしても、脳と三十パーセント以上の体細胞が接続されていれば、そこを起点に再生が始まる。
つまり、頭蓋と筋肉と腐肉で守られた脳を粉微塵にしない限りは、このアビスを倒すことはできない。
再生したアビスは、仁王のように立ちはだかる。
鷹邑の再戦。かつての雪辱は果たすことができるのか。
―― 次回へ続く。
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