FILE:19-4 ―― 鍔迫り合い

 代々木にて、ゾンビやアンモラルとの戦闘に挑むシャビ・五月雨・霧雨達。

「キリ無いわねっ! 」

「想定通りだろ? 早く終わらせて今夜は寿司にしようぜ! 」

「フラグ立てないで」

「ハッハ! 分かったぜ! 」

 人間相手の銃撃戦と、ゾンビとの白兵戦が同時に展開される乱戦。並行して民間人の誘導や救助活動を行っていく。そうしたヤクザたちと共に、民間人の有志もサポートに入る。

「この感じだと、ウチの持ち場は大丈夫そうね? 」

「だなァ! 」

「だから、フラグ立てないでって!! 」


「――皇治様」

「なに、左門」

 街道に車を走らせつつ、たまに左門はすれ違いざまに暴徒の頭を撃ち抜いている。

「本当に僕らの動きはこれでいいのかな」

「我々は遊撃隊です。もし特異種が出たら急行して処理するのが役目。今はただ、連絡が来るのを待ちましょう」

「けど……皆が最前線で戦っていると思うと、歯痒いね」

「同じくです。ですが、今しばしの忍耐です」

「左門の花婿は来るかな? 」

「冗談はお控えください。鷹邑が来ても、何の仕事もありませんよ」

「鷹邑とは言ってないけどなぁ」

「……冗談はお控えください」

 そんな、当の鷹邑一喜はというと。

「おいアドニス。これじゃ高速使えねえぞ」

「ばう」

 ゾンビ二〇〇〇体に道を阻まれ、Uターンを余儀なくされていた。

彼らが東京に辿り着くまでには、まだまだ時間を要する。


――伊形組事務所。

 鉞はその時を待っている。

 ただ、鎮座。

 オフィスには既に三人の鉄砲玉が訪れたが、全て撃退。それでも鉞の狙いとは異なる。

 敵は人間か、ゾンビか、動物か、爆弾か、戦闘機か、戦車か、砲弾か。それとも。

 そして、それは訪れた。

 入口からなんの覇気も気配もなく現れた白衣のゾンビ、ナカムロ。彼は枯れ果てた声で述べた。

「ㇵジメマして。伊形の゙長。ナカムロと申しマ゙ず」

「ジーニアスか」

「ホンジつは、もうヒとり客を連れテキマ゙した」

 デスク背後のガラス窓を突き破って飛び込んでくる、人外の侵入者。飛び込むとオフィスに並んだデスクに不時着して輪転する。

「誰の事務所だと思ってんだァッ! 」

 鉞も立ち上がり、デスクに据えたショットガンでその影を二発撃った。それでも何のダメージも無い様子で、巨魁きょかいはナカムロの傍についた。

「やっと来やがって。待ちくたびれたぞ」

「今ヵらコロㇱマ゙すから、遺言ヺ考えデください」

「遺言? 」

 鉞が腰にいた獲物を抜く。

 伊形家に江戸の代より伝わる錆無き日本刀。

「承りマ゙ㇱた」


――とある地に潜伏している桃田、ミク、斧見、井上。そこの庭園に隠れながら、桃田は考えている。

「(戦局はまず読んだ通りや。

 飛行機一機逃がしたんは痛いが、アビス一体、ジーニアス二体、アスレチック五体を捕捉できた。東京に流入したゾンビの総数から推定して、全部でアビスは二体から三体。ジーニアスもアビスと同数かちょっと多いぐらい。アスレチックは十体から二十体ってとこか。想定より暴徒が多すぎるのは盲点やった。作戦の終わった連中から、主要な場所に回すか。例のゾンビ対策チームの分隊と、若頭と左門と、戦力になる民間人が何人か手すきって考えると、まだ余裕あるか……? いや、アカン。鉞がどんぐらい強いかも知らんし、全員がどんだけ戦えんのかも情報が足りん……)」


―― 桃田にとって想定外のことは、渋谷区内の学園体育館避難所にて起きる。

 ここには荷稲、柄木、飯島など、以前の体育館戦を乗り越えた民間人が配置されている。

 発生したのは、想定されていた中で最も恐ろしいアクシデント。

「あれは、話に聞くアビスか……! 」荷稲は目を見開いた。

 スライド式の玄関扉をバリケードごと破砕し現れたのは、四本腕と邪悪な巨躯を誇るアビス。ソレに続き、連れ立ってゾンビが流入してくる。

「キャァァァアアア」

 「逃げろ! 」

「どこに!? 」

「逃げ場なんてあるか! 」

「戦うぞ! 」

「嫌だ! 」

 荷稲、柄木、飯島らの脳裏にいつかの光景が蘇る。

「柄木君! 左門さんに連絡を! 」

「はい! 」

「飯島さんは避難誘導! 避難口から一人でも多く逃がして! 」

「分かりました! 」

 指示を出した荷稲は、精神を統一する。

「ハァ」

 この体育館に、アビスと渡り合える者はいない。

 ここにアビスが現れるなど、桃田含め誰も予測していなかったこと。

 で、あれば。

「今一度弓を取るより道は無し、か」

 弓を持つと手が震えるPTSDに陥り、荷稲は暫く弓を置いていた。それでも、そう言っていられない窮状。

「(猿を殺め、噛まれ、殴られ。大火を後に逃げ果せた辛酸の記憶。夢に何度現れたことか)」

 アビスやゾンビは既に、民間人を捕えては惨殺を始めている。止める術があるなら、この弓に。 

「あいや、分かった。荷稲秋草の弓道ここにあり。存分に見せつけてくれる」

 弓を取り、乾坤一擲の射法八節。

 基本に基本を重ね、五十余年の研鑽の果てに辿り着いた明鏡止水の境地。

「いい加減に往生せい。屍どもよ」





―― 今、希望を放つ。次回へ続く。

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