FILE:19-3 ―― 戦場は平穏より奇なり

――それから。三名は二〇〇〇の敵を前に。


 支給された一台の装甲車にて高速道路の目的ポイントに現着。ゾンビ二〇〇〇の群れと相対する。

「壮観やのぉ」

「森さん。早いとこ仕掛けましょうや」

 村木と川瀬は昂奮こうふんしている。これから自分たちは死ぬかもしれない。そのことへの興奮が抑えられないのだ。

「あれを率いているのがジーニアス個体だという情報がある。落ち着いて対処する」

「へいへい」

「ロケランでぶっ飛ばしゃ終わりっしょ」

「そう簡単に済めばいいが」

 森は敵の狙いを読む。

「(埴という男は警視総監の家族を人質に取り、我々を分割してこの大群に当てるよう指示させた。それほど我々を警戒しているということか。それとも)」

 その埴の狙いは直ちに明らかになる。

 ジーニアスのカナモトは、この二〇〇〇の中にアスレチック五体を含めていた。

 三人のもとへ、大群を掻き分けるように五体の巨体が前進。群れの先頭へ躍り出る。

「やはり……ただの烏合ではなかったか。村木! 川瀬! 」

「ういッ! 」「はいよッ! 」

「この東京に最も苛烈なる戦績を刻むッ! 全個体生きて返すなッ!」

「イェッサーッ! 」

 三人が、気休めに支給されたアサルトライフルを腰に構える。これは勝ち目の無い戦いであるが、一匹でも数を減らしておくことが後続の為になる。

 そして。

 ここに、桃田が馳芝茉生から得た情報が活きた。

 三人の背後より到着したのは、埴の息のかかった警察組織でも、自衛隊でもない。

 メキシコの大麻を吸って育ち、盟友の借りを返す為だけに海を渡って来た狂犬の群れ。

 十五台の装甲車両のうち、一台が森の傍につく。運転席の窓が開いて、肌の焼けた青年が顔を出した。

「む? 誰だ、貴君らは」

「我々は通りすがりの麻薬カルテル。ウォッチドッグスです。盟友の指示により、皆さんをお助けにあがりました」

「なんやい、犯罪者やないか」

「俺らの見せ場やねん。帰れ帰れ」

「構うな。今の我々は溺れる身。藁をも掴まねば犬死にする分際だ。存分に助けていただこう」

「良い上官ですね。こっち勝手に火線張るんで、いいように展開してください」

「承知した」

 森は、今まで何千と思ってきた事実を再確認した。


「(戦場は平穏より奇なり、か)」


 埴と東條は、羽田より既に離陸した一機に乗っていた。

 今やまともに機能していない空港。その上級職員を脅して航空機を制圧。離陸してそのまま、爆破予告した建物へぶつける計画。

「で、東條。後の二機は? 」

「連絡はありません。まだ離陸していないものと」

「おかしいな、定刻は過ぎてる……まぁいっか。この一機さえ飛べば問題ない」

「その通りです」


 

 馳芝茉生もそこにいた。

「パイロット並びに搭乗員は全員膝を突いて手を挙げろ。我々には発砲許可が出ている。少しでも動けば撃つ。

(一機間に合わなかったが……桃田の言った通り、爆破は爆弾ではなく飛行機による衝突で狙ったものだった。奴が言うことが正しければ、これでスカイツリーと都庁は無事。しかし)

 議事堂は、もう救えない」

 この日の国会議事堂は。

 テロに屈することを是としないタカ派の議員が多数出席。形だけの国会が行われている。

 議員の中にはアンモラルへの超法規的な反撃も辞さない構えの者もおり、埴にとってみれば邪魔であることこの上なかった。

 議員は、爆弾が事前に捜されたうえで見つからなかったと安堵している。その実は違うが、彼らには気付きようがない。

「埴殿。後ろの二機は警官隊によって奪還されたようです。なぜバレたのでしょうか? 」

「さぁね。けど、この一機で全部の条件を満たせる。今この飛行機が飛んでるだけで、僕は心から安心してるよ」

「何よりです。では準備の方を始めますかな」

「そうしてくれ」





―― 次回へ続く。

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