FILE:19-2 ―― チーム

―― 時は遡り、四日前。

 チーム通天閣の桃田、ミク、斧見、強面の井上の四人は、伊形組事務所の向かいにある雑居ビルに軟禁されていた。他のメンバーは皆近くの避難所に移されている。

「で、揃って拉致されて今に至るわけや」

「やっぱヤクザはクソでござるね! 」

「下手なこと言うな。盗聴されてんだぞ」

「とっ!? 」

「では、桃田さんがどのように協力されるのかお聞かせくださいますか? 」

「ミクちゃんはほんまボクのこと好っきゃなぁ……とりあえず、説明してくわ」

「頼むぜ」

「ワクワクするでござる」

「お願いします」

「まずな、今回高速から来とるゾンビについてや。

 コイツら、今までバレんように大群で隠れてたクセして、なんで今、東京に来んねん? 」

「確かに……言われてみれば。キリが良すぎます」

「数は空撮でちゃんと数えたらしいし、ゾンビの動きにしてはあまりにも不自然やろ? 」

「そうでござるね」

「進路も不自然や。東京に西の高速から入った場合と、北の埼玉側から入った場合。主要な地区に近いんは断然北や。

 ボクがゾンビの大将なら、西からツッコまずに下道通って奥多摩から抜けて埼玉に渡ってから、最短で新宿とかを荒らしに行く道を採る。

 これなら敵にバレにくいし、バレたとしても先手を取れる。高速を封鎖されたりせんし、迎撃されるリスクも低い」

「では、本命は爆破予告の日に北からやって来るということですか? 」

「ボクならそうするって話や」

「でも、でもでござるよ? 爆破が絶対当日にされるなんて、埴を信用し過ぎでは? 」

「爆破だけが目的なら今まで散々予告無しにやってきとる。今回だけ違うのは、特定の日にせなアカン理由があるからや」

「例えば何だ? 」

「メディアにキレイな映像を撮らせて拡散させるとか、爆破そのものを作戦の一部にするとかや」

「ってことはよ? 止めるべきはその爆破と、二〇〇〇の群れと、北からの何かと、アンモラルの本隊、ってことか? 」

「うん。無理ゲーやね」

「絶望的でござるねぇ」

「けどソイツらまとめて叩けんのも今回だけ。ピンチはチャンスとはよう言うたもんやわ」

「全国から味方が集まってるのも今回だけでござるもんね」

「そうや。大事なのは、そういう味方の動向を把握しつつ、こっちの人員を最適に置くことや。その為には情報が…………あ、誰や? 」

 作戦会議へ突如割り入ってきたのは、警官の制服を着た馳芝茉生だった。部屋に入るやいなや警察手帳をかざす。

「警官の馳芝という者だ。伊形組の霧雨から、持っている情報は全て桃田という男に共有しろと言われてやって来た。大切な情報が一つある」

「おう。待ってたで。公務員」


 時はさらに遡り、その前日。

 ゾンビ災害独立対策班、作戦会議室。隊員全七名が一堂に会している。

 隊長の森は、沈痛な面持ちで作戦行動を告げた。

「今しがたのことだ。迫る件の大群二〇〇〇を、我らだけで抑えつけよとの命が下った」

 一同、疑問符。

 当然である。七名でそんな数を相手取れるものなら、とうにやっている。

「不可能では? 」公孝が真っ先に発言した。

「じゃあ放っとけ言うんかい」武闘派の村木は、既に隊長の判断を支持している。

「いいえ。ただ、来るアンモラルとの戦いについては考慮されたのでしょうか? 」

「勿論だ。よって、隊は二つに分けることにした」

「ただでさえ少ない隊をさらに分けると? 」

「そうだ。高速でゾンビを迎撃するのは、私、村木、川瀬の三名だ。残り四名は、ヘリを駆って都内の特異種を掃討せよ」

「駄目です。森さん。いくらアナタの命令であっても、それは」

「これは警視総監の命令だ」

 村木と川瀬が同時に机を蹴り飛ばした。

「そんな命令蹴りましょうや! 」

「そうだ! 命より大事な命令なんて無いぜ! 」

「それが有るのだ。命より大事な命令が。いいか……これが警察で、社会で、戦争だ。地位が高くなり責任を負うということは、こういうことだ。今回は、私が責任を持って皆の命を預かる。もしもの時は、私だけ置いて撤退することも許す」

「アナタらしくない。森隊長」

「そうだ。マトモじゃねえ」

「ホントにな」

 そして、森が天井を仰いで呟いた。

「……我々には相応しい花道だろう」

 七名の無音の慟哭がこだまする会議室。

 彼らの肩に、都民の命の重圧がかかる。





―― 次回へ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る