FILE:19 ―― 東京決戦

FILE:19-1 ―― 祭りが始まります

―― 東京都庁・東京スカイツリー・国会議事堂爆破の前日。

 伊形組事務所には、組長・伊形 鉞のみ。

 最終会合の定刻となり、彼はビデオ通話を繋ぐ。

 皇治含め各々のポイントに待機する組員たちが画面に顔を出す。

 例外的に、桃田のみ画面をオフにしているようだ。

「始める。明日に向け状況説明から。五月雨」

〝分かったわ〟

 五月雨はこの期に及んでもオカメの面を外すことなく、淡々と話しはじめる。

〝はじめに。

 私たちの明日の勝利条件は、埴を殺してアンモラルを壊滅させること。もし失敗すれば東京は消滅。日本の再興も、自分たちが生きてるうちには叶わないでしょうね。

 逆に、これに勝てば向こう十年は伊形の地位が約束されるわ〟

 鉞が激励の言葉で繋ぐ。

「明日一日のヤクザの働きは、間違いなく日本の歴史に残る。組創設以来、最も貴様らのヤクザらしさに期待する」

 組員一同が頷き、桃田がおずおずと口を挟む。

〝言っとくがボクはヤクザちゃうからな。ほな、詳しい作戦説明すんで……〟


……それから。光陰矢の如く時は過ぎ、当日の明朝。

 埴と東條は都内某所にて、車内から日の出を迎えた。

「遂に、時が満ちましたな」

「だね。東京から諸々を一掃する。今日がその約束の日だ。全国からアンモラルメンバーを集めたら数は二万。ゾンビと合わせて三万の暴力で東京を焼く」

 通常のデモなどで数十万の人間が集合することはある。しかし、この三万とは、人を殺すことに異常な喜びを感じるシリアルキラーや、人喰いゾンビの大群。

 それが最も人口の多い都市、現在において日本人口のおよそ四割が集中する都市に放たれればどうなるか。

 彼らはやって来る。

 仄暗い山の果てから。

 彼らはやって来る。

 黒く泥濘む海の淵から。

 彼らはやって来る。

 死を啄みに高き空から。

 ある者は目を血走らせて追うだろう。

 ある者は刺して骨身を啜るだろう。

 ある者は、頭蓋骨が粉々になるまで踏みつけ、又ある者は人間の尊厳が塵になるまで精神を凌辱することだろう。

 三千世界が全て罪に埋まっても足りないほどの殺戮と奪略の日。

その朝日は、既に昇りはじめている。


 埴のもとへ通信が入る。

〝状況を報告いたします。

 ゾンビ災害独立対策班全七名は、高速道路の二〇〇〇のゾンビに対応する部隊と、他へ対応する遊撃部隊に分かれた模様。

 埼玉側から侵入するゾンビ群は、県境に配置された警官隊や自衛隊と衝突を開始。その防衛網をすり抜ける形で、ゾンビの四割、およそ三〇〇〇が東京への侵入に成功しました。ジーニアスの指揮により、四時間ほどで新宿まで到着するものと思われます。

 最後にアンモラル各員についてですが、こちらも一部は避難民に紛れて都内に侵入成功。各地の避難場所で行動を開始しています。

 既に現地ヤクザや自警団との戦闘を始めている者も見られます〟

「ありがとう。作戦通りだね。飛行機は? 」

〝羽田にて、三機の離陸準備が整っています〟

「ナイス。首尾上々だ。けど一番大事なのは僕らのアビス・アスレチック・ジーニアスが働くかどうかだよ。連中に付けたGPSは動いてる? 」

〝問題なく〟

「オッケ。僕は東條と一緒に羽田へ向かう」

〝かしこまりました〟


 同時刻。東京都内国立代々木競技場。

 日本一大きなスポーツ施設であり、現在は数万人規模の避難民を抱える避難所兼仮住居となっている。

 しかし。そこに紛れ込んだアンモラルの手によって、避難民の唯一の平穏は、今まさに破壊されようとしていた。

「逃げろ! 」

「やめてよ、触らないで! 」

「押すな! 」 

 「痛ッ!? やっべぇ、弾当たった……」

「なんだよアイツら! 」

「殺せ! ここにいる奴は全員撃ち殺せ! 」

「嫌だ嫌だ嫌だッ」

「出口も解放しろ! ゾンビさんのお迎えだァ! 」

 避難所におけるアンモラルのテロ行為が勃発。

「どいつもこいつも殺せ殺せ…………あ? 」

 そうした有数の避難所には、桃田によってテロを予測・配置された反撃カウンター要員がいる。

では、ここ代々木に配されたのは誰か。

「俺たちってヤクザだよなぁ? これじゃ正義のヒーローじゃねえか」

「たまには良いじゃない。好きよ。プリキュア」

「黙って働きましょ。体力は温存しないと」

 「オラァ! 鉞さんの顔に泥塗るんじゃねえぞ! 」

「ヤクザ以外で銃持ってる奴は血祭りだ! 」

 「ハッハッハ! 銃刀法は今日で撤廃だなァァア‼ 」

 ドレッドヘアの黒人に、オカメとひょっとこ仮面の凸凹凹デコボコボコトリオ。シャビ、五月雨、霧雨の三人率いる伊形組の構成員、及び伊形組下部組織の組員たち。

 総数五〇〇人のヤクザ軍団は、数万の市民を守るために抗戦を開始した。





―― 次回へ続く。

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