FILE:19-5 ―― 悪魔へ

―― 柄木から通報を受けた左門と皇治。

「ようやく出番のようですね」

 左門はワイシャツの袖を捲り、眉間に力を込める。

「死に急がないでよ」

「アビスはリベンジの相手です。気が逸ることもお許しください」

「ここまで組員も結構死んでる。僕も頭に血が上ってるんだ。許すさ」


「こちらゾンビ災害独立対策班B分隊。アビスの通報了解しました。

すぐに渋谷へ急行します」

 通報を受けた四人の隊員もまた、ヘリで皇治たちと同じく渋谷避難所へ向かう。

 だが、そのヘリの背を追うアスレチックの影。

「ぉヱ。落としにヵかる」

 走るアスレチックの肩に乗ったジーニアスのイケモチは、ロケットランチャーを背負っていた。

 アスレチックはみるみる走る速度を上げていき、走行車と並走できる速度に達する。

 ヘリとの距離は縮まらないが、見失うこともない。

「この急襲で仕留めル゙」

 その頃。

―― アビスを単独で相手取る鉞。

「柔らけェ肉だ。刀がなまる」

 彼は脇腹に一度打突を受けるも、内に着こんだアーマーによりダメージを軽減し、返す刀でアビスの腕を一本叩き落としていた。

「そこの。見てるだけか? 」

「ㇵゐ」

「つまらん」

 このアビスは腕が二本だが、ダメージの再生が著しく速い。斬った傷はたちまち治り、無くなった腕も一分足らずで生えてくる。

「何回治しても変わらんぞ。俗物。次は首をねる」


―― 国立代々木競技場避難所。

「いよいよお出ましか」

「アビスじゃなさそうね」

「すぐ片付けましょ」

 シャビのドレッドは乱れ、五月雨と霧雨の面も返り血に汚れている。そんな三人のもとへ突撃してきたのは、アスレチックの三体。全員がラグビー選手のような骨格をして、猪突猛進の突撃を仕掛けてくる。

「一人一体、殺れるか? 」

「誰に言ってるの? 」

「私が二体仕留めてあげる」

「その意気! 」


「―― では、埴様。降下準備を」

「了解」

 埴と東條の二人はパラシュートを背負い、開いた非常口に立つと、高度を下げつつある飛行機から飛び降りる。

 その数十分後。

 旅客機は国会議事堂へ衝突。

 避難の間に合わなかった議員四十名が死亡。

 十名が重軽傷を負った。

 消防と救急が駆けつけるも、国会議事堂周辺に待機していたアスレチック六体によって妨害を受ける。救助隊員全員が死亡。

 これにより、重軽傷だった十名のうち八名は処置が間に合わず死亡。二名も自力で脱出を敢行したが、出口で鉢合わせたアスレチックにより殴打され殺害。

 したがって、国会議事堂、崩落。

 議員五十名が命を落とした。

 事件は瞬く間に付近で張り込んでいたメディアによって拡散され、世界中を震撼させるニュースとなる。


 埴の狙いは貫徹され、埴自身も、東條と共に目的地への着地を果たした。

「よし。お邪魔しまァす」

「私も数十年ぶりにお邪魔します」

「けど静かだよね。いくら天皇陛下が避難してもういないからって、警備ザルすぎじゃない? 」

「皇居の警備となると、簡単に民間から集められるものでもないのでしょうな」

「そっか。一朝一夕にはいかないよね」

 二人は、国会議事堂へ向かう飛行機からパラシュート降下し、皇居敷地内へ降り立った。

「どうする? 探検してく? 」

「それもよろしいですが、早く焼いたほうがよいかと」

「だね。他があんまり上手くいってないから、僕らだけでも上手くやらないと。行こ」

「御意」

 その二人を、

「ちょいちょい、お待ち。お二人さん」

「そうでござる。待つでござるよ」

「一歩でも動けば、う、撃ちます」

「そうだ。ドタマぶち抜くぜ」

 四方から現れたのは、桃田、斧見、ミク、井上である。

「……どうしてここが分かったの? 」

「サイコキネシスや」

「それは念力じゃろうが」

「細かいことはええやん。みみっちいジジイやな」

「どれ、応戦しますか? 埴殿」

「ダメだ。我慢我慢。お相手も僕らを殺すことが目的じゃないはずだよ」

「その通りや。生け捕りにして、ヤクザ連中に引き渡して報酬ふっかける」

「だ、そうだよ」

「成程」

「けどねぇ。生け捕りはちょっと時間かかるよ。議事堂に置いたアスレチック六体、ここまで来るのに何分かかると思う? 」

 三本の指を立てる。

「三分だ。ジーニアスのお陰で指示すればここに来る」

「……ほぉ」


 それは、知と血の邂逅。





―― 次回へ続く。

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