FILE:12 ―― 大阪大逆
FILE:12-1 ―― ワイらはチーム通天閣
――舞台は移って大阪。アンモラルの魔の手は、既にここ大阪へ迫っている。
「桃田さん。アンモラルの手勢が二百、兵庫より県境を越え大阪に入ったと情報がありました。既に虐殺行為も始めているようです」
そこは、大阪ミナミに昔から根ざした、地元市民に愛される二階建てのホームセンターの一画。
埃っぽくなったビジネススーツを着た女性が、
男はあぐらをかいて、近所のスーパーでかっぱらってきたお菓子の山を漁っていた。
「チョコボールからエンゼル探しとる最中や。どうしても今やないとアカンの? 」
「はい。どう考えてもこちらが優先かと」
「ド正論やね。腹減ってんのにぐうの音も出んわ」
男はエンゼルを諦め立ち上がる。ここで以前働いていたスタッフが利用していた休憩室を目指し、ぼんやりと歩きだした。
「で、あの赤ちゃん仮面は来とるん? 埴やっけ」
「いえ。彼は大阪を通らず、迂回して日本海側を進んでいるようです。その他、もう一隊は太平洋側を進行中と」
「三隊に分かれたんか」
「はい。道中でアンモラルに賛同した者を傘下に入れているという情報もあり、今後も勢力は拡大していくものと思われます」
「そかそか―― おい皆、準備やで~」
桃田がスタッフルームのドアを開けると、五人の人間が振り向く。
「アンモラルの連中が来とる。チーム通天閣、作戦準備や! 」
「社長それダサいすよ。変えません? 」中でも強面の、タンクトップ姿で両腕にタトゥーを入れた、スキンヘッドの男が指摘する。
「ドアホ! こんな名前で活躍したら、かえって様になってくんねん。ソシャゲの上位ランカーも軒並み変な名前しとるやろが」
「まぁ……そっすね」
「やろ? そうなったら作戦考えるで。ミクちゃん。ホワイトボード頼むわ」
「かしこまりました」
桃田についてきたスーツの女はミクといい、すぐに会議用のホワイトボードをすべらせてくる。
桃田がペンを持ち、ホワイトボードに書き殴っていく。
「まず、敵はアンモラル。数は二百。こっちは全員合わせて三十や。
こっちは銃も持ってへんし、あんのは百均の果物ナイフがええとこ。幸い、食い物も水も食器も洗剤もあるから、籠城するには困らへん。
敵はチュウチョなく撃ってくるから、正面衝突は絶対NG」
強面が口を挟む。
「じゃあ今から逃げるんすか? 」
「無理や。二百人に徹底的に追われたら逃げきれへん」
「抗戦あるのみ……っすね」
「けど、こっちにも有利な点がある。地の利や。こっちは全員、このパニックが始まってからずっと大阪で暮らしとる。どの建物に何があるか、どの道がどこに通じとるか、なんでも知っとるやろ? 」
それを聞いてハッとしたように、メガネにおぼっちゃんカットの、すこぶる肥えた男が言う。
「戦国無双シリーズでも、地の利を活かしたイベントは定番でござる……」
「斧見の言うとおりや。世は戦国時代。今からあるんは戦争。持ち味を活かせへん奴から死ぬでぇ」
「たしかに。実際、俺たちはそれでこの何年も生きてきたわけだしな」強面は頷く。
「となれば、するんは籠城や。とりあえず全員から案出してもらうで」
――大阪に上陸したのは、アンモラル幹部が一人、近衛。
彼は二百の手勢を好きに働かせ、大阪に到着して数時間のうちに、既に二千にのぼる人命を奪っている。手勢の内、数十名は反撃に遭って命を落としたが、降伏や投降によってアンモラルの門に下った者を合わせれば、集団は当初より増加。今や三五◯の規模に膨れ上がっている。
そして。彼らはチーム通天閣が拠点とするホームセンターへ差し掛かる。
近衛は車両の後部座席から、運転席の秘書と会話を交わす。
「あれが件のホームセンターです」
「あいや分かった。総員、包囲せよ」
「了解しました―― 総員包囲」秘書がインカム越しに指示。
近衛は内心、大阪で最もこれからの戦いに警戒心を抱いていた。
「(チーム通天閣……舐めた名前だが、リーダー桃田の
「いいか。油断大敵を肝に銘じろ」
「承知しました。全員に伝えます」
「―― なぁ斧見。アイツら孫子読んでないんか? 」
「負けてから読むかもしれんでござるよ」
二人は、センターの屋上にパイプ椅子を置いてふんぞり返り、ポテチをパーティ開けしながら、階下の光景を観戦する。
「ほな、地獄で読書させたろか」
―― 次回へ続く。
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