FILE:11-7 ―― ゾンビ災害独立対策班

 瀕死の鷹邑の容態を確認するため、五名の隊員のうちの一人が鷹邑を診る。

「ヘリ降下までに応急処置します。」

 黒の防弾マスクによって顔は判別し難かったが、声は若い女性だった。

「総員グレネードランチャー構え」

 残った四名の一人、灰のアーマーに赤の腕章を巻いた隊長と思しき男が、九州訛りの強い声で指示する。

 二体のアビスは、四丁の銃器を警戒せず、歩道を通行するような足取りで近づいてくる。

「斉射までカウントダウン。三、二、一」

「撃て」

 二体のアビスの足元、横一列に炸裂弾が着弾。アスファルトがプラスチックのように弾け、火焔と爆煙でアビスの姿が消える。

 音に驚いた馬とアドニスは数歩後ずさったが、それでも逃げることはしなかった。

「続ける。構え」

 煙の中からアビスは現れない。間髪入れずに次のグレネードが撃ち込まれる。

 再び炸裂。炎の柱が立ち上り、熱風が隊員を覆う。

「敵は? 」隊長の問いに、隣の隊員が答える。

「片方の個体が、もう片方を盾にしているようです」

 答えた男性隊員は、マスクの上から、特殊な温度感知のゴーグルを装着していた。

「知性に個体差があるな」

「その様です」

「総員、武器をショットガンへ変更」

 四人はグレネードランチャーと、背負っていた銃器を持ち換える。

 破片を踏み砕く音。煙に映る影が濃くなった。

 煙の中を脱出し、死体になったアビスを、背中側の両腕で持ち上げ盾にしたもう一体が突撃を断行。その速度たるや、盾も相まってただの銃では足止めにすらならない。

 だが。

 頭上より飛来したロケット弾の命中すると、アビスは肉盾ごと塵になり焼失。

 さらにヘリが降下し、煙がプロペラの風で消えると、そこには見分けのつかない焦げた肉片があるばかりだった。

 そうして着陸したヘリから、パイロットともう一人の隊員が現れる。

「今日も出世コース歩いてまいましたわ。ささ、お褒めください。森隊長」

 その隊員は軽々しく隊長に肩を組み、マスク越しに頭を撫でつける。隣で見ていた特殊ゴーグルの隊員が怒罵を浴びせた。

「殺すで村木。あんま調子のんなや」

「黙っとけカス。眼中にないんじゃお前なんぞ」

 二人は互いの額に銃身の短いショットガンを突きつけ合う。隊長はそのやり取りに触れることすらしない。

「任務は完了した。民間人を連れて帰投する」

「了解……命拾いしたな。背中から撃たれんよう気ィつけえよ。カワセミ」

「川瀬じゃ。変な名前やめぇ」

 村木は鳥の真似で手をパタパタとしながらヘリに戻っていく。

 満身創痍の鷹邑も、アドニスとともにヘリに乗せられた。けれど、さすがに馬は乗せきることができず、隊員たちは、ヘリの影を追ってくる馬体をただ見下ろした。


「――で、間に合わなかったね」

「申し訳ございません」

 鷹邑を置いて逃げたと思われた左門とコウジは、ウォッチドッグスの援軍を連れて、先の戦闘現場に戻って来ていた。

彼らが見つめる空には、小さくなっていくヘリの後姿がある。 

「アビスの遺体があります。連中がやったものと」

「見れば分かる。とりあえず鷹邑を取り返さないと最悪、ボスとか組の情報を吐かれる。それが一番厄介だ。左門も鷹邑がいないと寂しいだろ? 」

 左門は唇を噛む。

「……では、行き先を変更し、鷹邑のGPSを辿ります」





―― 次回へ続く。

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