FILE:11 ―― 東海道中膝栗毛

FILE:11-1 ―― 馬命のトロッコ問題①

 旅の道中。

「で、なんで二人ともボロボロなわけ」

「全然、何も。トレーニングよ」鷹邑はハンドルを握りつつ、口ではタバコを咥えている。

「この男が稽古をつけろとうるさく」

「嘘つけ……そんで、これからどこ行くの? 」

「まずは静岡へ。ウォッチドッグスの日本拠点です」

「そか。犬養さん来てる? 」

「はい。伊形組に協力しに自ら」

「小学二年ぶりだ」

「誰それ? 総理大臣か? 協力してもらえんの? 」

 鷹邑が茶化す。

「犬養様はボスの盟友。ウォッチドッグスという麻薬カルテルの幹部だ。義理堅く、ボスに借りを返すために日本まで駆けつけてくださった」

「まずあのマサカリ? のオッサンは何者なんだよ」

「ウチの親父はただの親バカ」

「皇治様。父上のことをそのように言ってはなりません」

「なら息子代わってよ」

「嫌です」

「だろ」

「即答じゃねえか」

 しばらく車を走らせる。もうすぐ高速に乗る。

「お前のことはなんて呼べばいい」

「好きに呼べ。気安い呼び名なら殺す」

「サーモンは? 」

「刺身にされたいのか? 」

「気難しい奴だなぁ。名字は? 」

あがた

「聞いたことねえ名字だな」

「自分でつけたからな。組には戸籍が無い者も多い。私もそうだ」

「名前も自分で? 」

「違う。私の名はSalma。リスニングの不得手なボスが、勝手に左門と呼んでいる」

「じゃ、俺はサルマって呼ぶか」

「懐かしい感じはする。が、土壇場で自分のことだと気がつくのに時間がかかるかもしれん」

「なら、左門でいいな」

「勝手にしろ」

 左門は終始ぶっきらぼうだった。本名を呼ばれても、固い表情が変わることはなかった。表情筋が死んでいるんだろうな、と鷹邑は推測した。

 やがて高速道路へ。

 道路は政府の尽力によって廃車の多くが取り除かれており、パニック当初よりかなり通行しやすくなっている。

 取り除かれた車の多くは海外へ売られ、その資金は政府が復興支援に充てている。

 しばらく変わらない景色が続く。

 コウジはアドニスと最後部のベッドで眠った。左門は、車両の中心のソファで窓から景色を見ている。

「外の様子はどうだ? 」

「ゾンビも烏もいないな」

「そうか」

「念の為に備える。運転に集中しろ」

「分かった」

 ゾンビやカラスは、必ず数匹道路にうろついているものだ。

 鷹邑が眼前を注視しながら運転を続けていると――。

 前方から、馬が横一列になって猛然と走ってくる。その後ろからは、馬を追い越さない速さでオープンカーが三台走っていた。

「なんだ、あれ」

「馬追いだ」

「何だよそれ? 」

「悪趣味な遊びだ。馬を走らせてそれを追い、最後尾の馬から撃っていく」

 言っている間に、銃声がフロントガラス越しに響いてくる。馬の一頭が、足を挫いたように列を外れた。





―― 次回へ続く。

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