FILE:9 ―― オッサンとヤクザと若頭とシェパードと

「そのメンバーでチームを組む理由は、私から説明する」

 遅れて入室してきたオカメの仮面を着けた五月雨が、頭を垂れる人々の間を縫うように鉞の隣に進む。

 我に返った生存者たちが頭を上げ始め、鉞、五月雨、左門をマジマジと見た。

「これから、各地のヤクザとアンモラルは戦争になる。伊形組も例外じゃなく、ね。

 連中は鬼畜。正面からやり合う前に、水道を潰されたりガソリンを使われたり、ドローンで爆撃を受けたり、遭遇する前に鏖殺おうさつされる恐れがある。

 となれば、一箇所に戦力を集めて迎撃するのは下策。そもそも、それじゃ敵の大将首は獲れない――」

「なぁ、待て」馳芝が割って入った。

「いつから我々は暴力団の傘下に入った? 他はともかく、私が貴様らと組むことはありえん」

「ですって、左門」

「ふん。腐っても警察だな」

れた口を訊くなよ。チンピラども」

 馳芝がホルスターから二丁拳銃を抜く。霧雨と五月雨も二丁ずつ銃の狙いを定めた。

「騒々しい。下げろ」

 鉞が制すと、二人は銃を下ろし、馳芝も同じくホルスターにしまう。

「五月雨。続きを」左門が促す。

「えぇ。……調査の結果、アンモラルは埴っていうリーダーのカリスマで成立してるみたい」

「リーダーを討てば自ずと瓦解すると? 」荷稲が口を挟んだ。

「お爺さん。あなたの弓は霧雨やシャビを助けてくれたと聞いているわ。ありがとう。

 話を戻すけど、可能性は高いわ。もし瓦解しなくても、組織的な統制はかなり難しくなると思う。

 そこで、チームの話に戻らせてもらうけど。

 事務所を空にして、完全に伊形組を分けたりすると、アンモラルの動きが読めなくなる。確実に進路を読むためにも、伊形組事務所には一定数の人間は置いておきたいわけ」

「そこで俺が残る」鉞が言う。

「そう。裏社会でも別格の存在であるボスが残れば、敵は必ずここに向かって来る。だから、そこを狙う」

「具体的に、どうやって? 」柄木がやっと口にかけられていた呪いを解いたように質問した。

「挟撃よ。左門のチームにはアンモラルの背後をとってもらう。

 背後をとる道中で、各地に散った伊形組員や、組に協力する人員も集めてもらうの。

 それで集まった戦力を、背後からぶつける」

「なるほど」と、柄木は飯島の方を見て、「俺は質問してやったぞ、どうだ」と、にこっと白い歯をみせた。

「挟撃が成功すれば、全滅や大ダメージを避けつつ、敵にも効果的な一撃が期待できるわ」

「で、聞かせてもらうが」鷹邑が重い腰をあげた。

「なんでそのチームメンバーなんだ」

「説明する。まず、皇治様とボスを一緒にしておくわけにはいかない。組の頭が二人揃って同じ建物にいるのは危険だからね。

 皇治様には護衛が必要。護衛には、道中で仲間を増やせるコミュニケーション能力も必要。左門だけでは後者が心許ないわ。

 で、ある程度名が知れてて、かつ左門に殺されない人間となればアンタしかいない。犬はどうでもいいから勝手に連れて行けばいい」

「よーく分かった。けど俺はマイペースだぜ。人と歩調を合わすのが嫌いなんだ。いざとなれば伊形組なんてどうでもよくなるかもしれないぞ」

「大丈夫よ。左門から、アンタと戦ったときの話を聞いたわ。アンタは逃げない奴よ」

「……」鷹邑は黙って、足元で尻尾を振るアドニスを見下ろす。

「当の左門はいいのかよ」

「私はボスの命令に従うまでだ」

 鷹邑は訝しんだが、内心はなんだか安心していた。味方としてこれほど心強い奴はいない。

「ま、面白そうだしやってやるよ。報酬は? 」

 鷹邑は冗談半分で鉞にふっかけた。鉞は口角を歪にあげる。

「左門をくれてやる」

 にわかにフロアがざわめいた。馳芝は顔をしかめ、シャビと霧雨は、左門と鉞を交互に二度ずつ見た。

「おいボス冗談か? 」

「冗談よね? ね? 」

「黙らんかい。餓鬼ども」

 そう言われ、シャビと霧雨の二人は子どものように黙る。

「コー君の護衛にキックボクシングの世界チャンプが就く。良いガードだ。それから、この国じゃ金はもう機能してねェ。あとは女だろうが」

「だ、だからって、左門の都合もあるでしょうし、ね? 左門、たまにはボスに何か言ってもいいのよ」

 霧雨が特に焦っていたが、左門は表情を変えない。変えないまま、ぶっきらぼうに告げる。

「霧雨。我々の存亡がかかっているんだ。男の一人や二人、事が済めば殺せばいい」

 鷹邑と鉞は手を叩いて笑った。鉞の拍手の音のほうが、より大きく高らかに響いた。

「左門お前、それでこそだ」

「俺もその左門と、鉞さん。アンタらが好きになってきた。引き受けてやる。で、さっきから疑問だったんだが」

 一同が、やっとツッコむか、という顔で鷹邑を見る。

「アンタ、息子のことコー君って呼んでんのか」

 それから一同、鉞を見る。

 鉞は、三拍空けて、言った。

「俺は、家族が大好きだからな」





―― 次回へ続く。

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