FILE:8-2 ―― これからの話をしよう②

 黙って話を聞いていた馳芝が訊ねた。

「アビスは、未確認だけど存在が想定される、いわば未知のゾンビよ。

 例えば、アスレチックとジーニアスの能力を両方持ってるとか、ゾンビ化した動物とか、ゾンビって範疇はんちゅうにくくれなくなった連中を総称してるの。

 確認されたケースはまだ無いけど、理論的にいても不思議じゃない」

「なるほど。把握しておこう」

「ってことは、人間じゃ倒せないようなゾンビも存在する可能性がある、ということですか?」飯島が手を挙げて質問する。

「可能性はゼロじゃないわ。途方もなく小さな確率でしょうけどね」

 しかし、その低い確率が、五千万を超えるゾンビのどれかに発生しないとは言い切れない。

「まぁまぁ、ここらでポジティブな話も挟もうや。現状解決に向けて動いてる連中について、入ってる情報を共有するぜ」

「待ってました! 」柄木が声をあげて手を叩いた。無理に盛り上げようとしている感じが痛々しい。

「おうおう。とはいっても、これに関しちゃ茉生チャンのが詳しいな」

「多分そうだろう。私が代わりに話そう」

 馳芝は立ち上がり、ホワイトボードに書きながら解説する。

「まず、日本の警察にはSATという特殊部隊が存在する。彼らとは別に、新たなチームが結成された。

 通称『ゾンビ災害独立対策班』。ゾンビによって起きたパニックの内、大規模なものに対応するチームだ。

 さっきの話で言えば、アスレチックやジーニアス、アビスの対応などにはこのチームがあたることになっている」

「かっけぇー」

 シャビは、椅子にこれでもかと深く腰かける。もはや尻ではなく腰で座っていた。

「少数だが精鋭だ。戦果も多く挙げている。ゾンビを相手にするなら最も頼りになる」

「頼りに、ねぇ」霧雨はひょっとこのアゴをさすりながら呟いた。

「次に―― 」

 それから、いくつかの説明が続き、敵対組織の説明に移った。

「あんまし聞きたくねぇなぁ」

「右に同じだ」鷹邑とシャビが声を揃える。

「共有するのは一組織だけだ。こいつらにだけ、絶対に注意してほしい。連中が最も危険で動きが読めない。遭遇したら絶対に戦わず、なりふり構わず逃げてほしい」

「アンモラルか」シャビがポンと手を打って答えた。

「名答だ。連中のリーダーの経歴は全くの一般人。強いて言うなら、極めて強いサイコパス的素質を有した人間。メンバーも全員自由に生物を殺しまくっていた連中。

 簡単に言えば、

「タチ悪」鷹邑はアドニスと顔を見合わせた。

「アンモラルは目についた生物をひたすら殺し、文化を破壊している。奴らの行動に例外はない。不法移民や国外組織ですら、連中に出くわしたら逃げるよう徹底している。

 現に、九州北部に潜伏し始めた韓国系暴力団が三つ滅んだ。アンモラルの連中は、敵組員の腹に雑な手術を施し、爆弾を埋めて遊んだそうだ」

「ヤベェ」シャビは吹き出した。

 馳芝が念を押して言う。

「最も恐ろしい敵は人間だと言うが、その実は違う。駆け引きや、損得勘定のできる人間はまだマシだ。それが犯罪者や暴力的や奴だとしても。

 最も恐ろしいのは、

 形こそ人間だが、その思考回路や一挙手一投足は、人のソレとは違う」

「俺も故郷にいたときゃ、一番怖いのはテロリストより気が触れたご近所さんだったな」

「アンモラルは、九州から行動を開始して北上していると現地警官から連絡があった」

「ここ東京まで来られたらどうするか、って話だな」

「私たちみたいな暴力団を逃がしてくれるほど、優しくはないでしょうね」

 シャビと霧雨は考え込んだが、答えは出そうにない。

「とにかく、それまでに物資の調達含め、対応を――」

「おい」

 スマホでアンモラルについて調べていた鷹邑が声をあげ、馳芝を遮る。

「全員、ニュース見ろ、速報の」

 各々はガラケーやスマホで、それぞれニュース速報のトップを見た。

 それから人々は目を覆い、嗚咽をあげる。


 広島県✖市にて五万世帯火災。

 アンモラルが声明を発表。声明動画は以下のリンクから。





―― 次回へ続く。

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