第68話 完

 教会の鐘が鳴り響き、拍手と歓声が上がり、新しい夫婦の門出を祝う。

 色とりどりの花が飾られた教会内は、セレーナ特製の光源の魔道具が空間を飾り、優しい光で満たされていた。


 神父の問いかけに、新郎新婦は永遠の愛を誓う。


 穏やかな笑顔で寄り添い、歩を進める二人に祝福の声がかけられる。


「ウィル様、エミリー様。おめでとうございます」


 目を合わせて、はにかむ二人。


 お似合いの二人に、感嘆のため息が漏れる。


 頬を赤らめたエミリーは、いつも以上に美しく、可憐だった。


 教会での結婚式は、国王が参加したので、ウィルが実は王子だと知っている身内だけで開かれた。

 その代わり、晩餐会は、たくさんの人が参加していた。





「エミリー様、幸せそうでしたね」

「あぁ。エドワード様も来たがっていたんだけど、城を留守にするわけにいかなくて残ったんだ。こりゃ、あとで愚痴られるな」

 そう言いながら、マークも笑っている。


 結婚式の帰り道、余韻に浸っていたくて、馬車で遠回りをしていた。


 目を閉じると、幸せそうな二人が思い浮かび、心がほんわか暖かくなる。


 馬車が止まると、マークがセレーナの手を握った。


「セレーナ、少し外に出ようか」


 そこは、王都の高台だった。


「きれい」


 家々の窓からは光が漏れ、家庭の暖かさを感じる。


(今ごろエミリー様達も、二人きりになれたかしら?)


 ウィルは、一軒家を借りて二人だけの生活を始めようとしたのだが、敢えなく頓挫していた。

 一応、王位継承権をもつ身。護衛もつけないなど認められず、散々揉めたあと、エリントン家に一時的に住むことになった。護衛も使用人も多いからだ。

 嫁の実家で、初夜を迎えることになったウィルの微妙な顔と、アランの複雑な顔を覚えている。


 まぁ、あの家は広いので、気にすることはないだろう。


 エミリーは気にした様子もなく、

「次はセレーナの番ね。私、とっておきのプレゼントを考えているんだから」

と、嬉しそうに笑っていた。


 結婚式で着るドレスも決まり、日取りも決まっている。


 マークからは、特別にプロポーズのような言葉はもらっていないが、そんなもんだと思い始めていた。


 はっきりと言ってもらえたら嬉しいが、言ってもらえないからといって、結婚式を渋るような気もない。

 当たり前のように準備を進めていくマークの態度が、気持ちを表しているのだと納得していた。


「セレーナ。こっち向いて」


 隣にならんだマークが、手を握ったまま跪いた。


「セレーナと共にありたい。俺と結婚してください」


 マークの声が震えていた。薄暗い中でもはっきりとわかるほど頬を染めて、懇願するような目で見つめてくるマークに、心臓が早鐘を打つ。


「はっ、あっ」


 緊張感から、口が回らない。


「セレーナ。愛してる」


 何だかんだといつも誤魔化してしまうマークが、意を決して伝えてくれたのだ。

 返事をしなければと思えば思うほど、頭が真っ白になり、思うように言葉を紡ぐことができない。


「セレーナの気持ちを教えて欲しい」


 いっそ、抱き締めていてくれれば、こんなに熱を帯びた瞳で見つめられていなければ、もう少し取り繕えたのかもしれない。


「はっ、あの、その、大好き・・」


 顔に血が上っているのがわかる。飾り立てることもない、心からの言葉がこぼれた。


 マークが立ち上がり、セレーナを引き寄せる。


「もう一回、言って」


「は、あの!」


 恥ずかしさから、モゾモゾと腕の中で抵抗していると、キュッと抱き締められて、後頭部を押さえられた。

 耳元で、マークの吐息が聞こえる。


「俺も大好きだよ。セレーナは?」


「はぅあっ!」

 背筋がぞくぞくして、すべてを委ねてしまいそうになる。


「セレーナ?」


「あの、私も・・」


「うん?」


 その先を、促してくる。


「大好きです」


「ふふふ。もう一回」


 恥ずかしくなり、マークの胸に顔を押し当てた。

「も! もう、無理です!!」


「そんなことないよね?」


(あぁ、もう!!)




 穏やかな日差しの中、セレーナとマークも、祝福されて結婚式を挙げる。こじんまりとした式だったが、大好きな人たちに囲まれて、大好きな人と結ばれる。子供のように泣く父の姿。自分の時にからかわれたのだろう。お返しとばかりにマークをからかい続けるウィル。始終笑い声に包まれていた。

 人目を憚るように渡されたエミリーのプレゼントは、とんでもないものだった。とても、セレーナの口からは言えそうにない。

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保健師も魔道具製作も!今日も楽しく働きます! 翠雨 @suiu11

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