第65話 倉庫の中には

「セレーナさん。こちらは、もう、僕だけで大丈夫です。あちらを止めてください」

 まだ、全ての人の治療が終わった訳ではないが、ルノマンに頼まれて、マークとカーチェスのところに駆けつけた。


「温めれば、打ってきますか?」


「そうです。ただ、結構近くでないと関知できないようなのです。ただ、目測を誤って近づきすぎると、鉄球を乱射されて危険です」


「板などを盾にしても、難しいですか?」


「鉄球の勢いが強く、板を貫きます。分厚い板なら大丈夫だと思いますが、重たいし、すぐに準備できないかと」


 しかも、無駄打ちさせようと温めてたところで、冷気をだす魔道具で冷やされてしまうらしい。


「板は何枚用意できますか?」


「倉庫は奥なので、こちらにあるか……? 探してみなければわかりません」


 最悪、ないってことも考えられる。

 なにか代用品がないかと見回していると、作業や書き物をするために使っている机が目にはいった。長年使っているようで、汚れてはいるが重厚感のある作りだ。


 探しにいこうとするカーティスを止める。

「では、机を使いましょう。どこら辺から魔道具の感知範囲か、わかりますか?」


 机をギリギリ感知範囲内に置いてもらい、その後ろに水の入った花瓶を置く。


 遠くから魔力を飛ばして、その花瓶の中の水を温めていく。


 距離が遠いというだけで、魔力効率がわるい。かなりの魔力を使わないと温められなくて、他の職員にも手伝ってもらった。


 ある程度水が温まると魔道具が感知して、攻撃を始める。


 木製の立派な机の天板に、鉄球がぶち当たり、めり込む音が響き渡る。あまりの音に回復した職員が、廊下に出てきてしまった。





 最初に呪いの魔道具が止まる。魔石は残っているものの、針が尽きたようだ。その後に鉄球の魔道具が、鉄球を使い果たして止まった。

 冷気だけであれば、板を貫いてしまうことはない。あとは魔力勝負だ。


 復活した魔法省職員も総動員すれば、もう勝利は見えている。


「カーティスさん。倉庫の中を確認しましょう」

 魔道具が止まったので、魔力探知で異常がないか探りながら倉庫にはいった。



 そこには、全身を焼け爛れさせ、傷だらけで倒れているオリバーがいた。


「オリバー……。呪い吸収の魔石をお願いします」


 近寄って検査の魔法を発動すると、体温が下がってしまっている。生きているのが不思議なくらいだ。その変わりに、人間と感知されずに命を落とすまでの攻撃は受けなかったようだ。


「セレーナさん」


 ノルマンが呪い文字を吸収する魔石を持ってきてくれてので受けとると、オリバーの呪いに向き合った。ノルマンも手伝ってくれるそうだ。


「セレーナ!! そいつは!! そこにいたってことは!! 禁忌の魔道具を動かした犯人なんじゃ??」


 マークの問いかけに、手を動かしながら返す。


「そうですね。その可能性が高いです」


 視線を巡らせると、他にも魔石が入った魔道具がある。というか、ほとんどの魔道具に魔石が入っている。 他に、操作なのか、物なのか、足りないものがあって動かなかったということだろう。


「そんなやつ、助ける必要はないだろ??」


 マークの怒気を含んだ声が聞こえた。


「何があったのか、わかりません。ちゃんと助けて、真実を聞いた上で罪を償ってもらうのです」


「そんなやつ、助けるな!!」

 腕を握られて、後ろから抱き締められる。マークが首筋に顔を埋めて、小さい子がイヤイヤをするように首を小刻みに振っている。


「マーク様」

 呼び掛けて、後ろを向くように体を捻れば、マークが顔を上げた。じっと、瞳の奥を覗き込む。

「エドワード様も襲撃を受けました。彼は、黒幕を知っているかもしれない、重要人物です。ちゃんと生きて、罪を償ってもらいましょう」


 マークが悔しそうに黙ると、カーティスの指示で、回復が得意な職員が活性化の魔法をかけ始めた。


 呪いはすべて取り出すことが出来た。最低限ひどい傷は塞がった。

 ただし、赤く爛れたところはそのまま。


 活性化の魔法は、自然治癒力をあげているだけ。本人の体力がなければ使えない。

 傷だらけで血液も失い、体温も下がってしまっていたオリバーにすべての傷を治しきるほどの体力は残っていなかった。


 後は牢に運ばれて、数日かけて、しゃべれる程度に回復させられるだろう。


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