第64話 魔法省の惨事

「あぁ、お前は、回復を。エドワード様。魔道具にうまく対処できていません。外部に協力を要請したいのですが」

 連れてきていた、魔法省職員に回復魔法をかけるよう指示を出すと、エドワード様に魔法省の現状を訴える。


「何があったんだ?」


「禁忌の魔道具が、動いています。誰かが魔石をいれたようで……。動き出した魔道具は自動で人を狙うので、その対処で精一杯です。実は今日は休んでいるものが多くて……。しかも、呪いの魔道具まで……」


「呪い……」


 宮廷魔道師が呟きを拾った。その呟きの出所を探すように、顔をうごかす。


「あぁあ!! セレーナさんではありませんか??」


 エドワード様そっちのけで、セレーナのところへやってきた。


「セレーナさん!! 一緒にきてください!!」


「カーティスさん」


 魔法省魔道具担当の室長であるカーティスだ。


「セレーナさん。来てください!! ノルマンだけでは、手が足りません」


 以前セレーナが呪いの処置方を教えたノルマンが奮闘しているようだ。

 状況を察知したエドワードが、すぐに指示を飛ばす。


「カーティス!! セレーナさんと、マークを連れていけ。こちらは、回復したものと共に国王を探す。マーク!! 魔法省は頼んだぞ。絶対に禁忌の魔道具を市街に出すな!!」


 マークが敬礼でこたえた。






 魔法省の建物の前につくと、ヒヤッとした冷気が漂ってくる。

「私が確認しただけで、三台の魔道具がうごいています。敵を凍らせて足止めするための魔道具と、小さな鉄球が勢いよく飛び出して敵を死傷させる魔道具と、呪いの針を飛ばす魔道具です。どれも、禁忌の魔道具として指定されているものです。魔石をいれてしまうと自動で動き、制御が出来ないようです」


 魔法の精鋭が揃っている魔法省だ。凍らせる魔道具と鉄球の魔道具には、対処ができたらしい。

 呪いの魔道具が動き始めてから、針に触れたものが呪いを受けて、防衛できていたのも崩れてしまったそうだ。


「呪いの針って、そんなに簡単に手に入るものですか?」


 恐る恐る、魔法省の建物に踏み入れながらセレーナが聞く。


「昔から魔道具の中に入っていたようなんです。僕が働き始める前から倉庫に眠っていた魔道具ですから、どうやって手に入れたのかは……。外国には生息している、沢山針の生えたネズミのものです。その針に触れると、呪いがかけられて、焼けだたれたようになるようなのです。ノルマンが呪いを取り除き、回復魔法が使える職員で対処しているはずなのですが」


 部屋に入ると、「うぅ~」っと呻き声が聞こえた。


「ノルマン!! 状況は??」


「室長!! とても追い付きません!! あの魔道具、何とかしてください!!」


 他の職員も、大声をあげた。

「カーティス室長!! あの針は、板などで防ぐことができますが、足など出ている部分を狙ってくるので厄介です!!」


 長い廊下の一番奥に、冷気を吹き出す魔道具が見えた。見にくいだけで、他の魔道具もあるようだ。


 車輪を使って動いているようで、机などで塞ぎ、こちらに近づけないようにしているらしい。遠くから机などを投げつけたらしく、ごちゃごちゃと、色々なものが積み重なっていた。


「僕は、魔法は得意ではなくて……。魔道具については、普通より詳しいとは思いますが、新製品を研究して作っている、町の魔道具店には敵わないと思っているんです。あの魔道具だって、ずっと前から倉庫にあって、近寄らないようにしていたので、じっくり見たことも、ましてや研究したことなどありません。セレーナさん。なにか気がついたことがありましたら、教えてください」


 魔法省は、販売される魔道具が、問題なく使えるかチェックするのが主な仕事だ。王族や中枢組織からの 依頼もあるらしいのだが、常に研究をしている魔道具店には敵わないと言う。

 魔道具店であれば、研究したものがすべて商品になるとは限らない。商品に出来ずに眠っている技術もあるはずだ。そういったものは魔法省には持ち込まれない。


(そう言われても、遠すぎるのよ……)


 そう言われてじっくり見たとしても、この距離ではよくわからない。近寄れないのであれば、基本的なことから止める方法を考えるしかないだろう。


「あれだけ、冷気を出しているということは、かなり燃費が悪いと思うのですが、魔石が尽きてしまうということは考えられませんか?」


「それが大きな魔石を、詰め込めるだけ詰め込んだようで、まだかなり残っているんです。あの状態になって、人がちかづかないので攻撃も減っています。魔石がなくなるのを待つのは……」


 他に方法がなければ考えなければならないが、あまりしたくはないそうだ。


「カーティスさん。あの魔道具は、どうやって人を見分けているのでしょうか? それが分かれば、安全に魔石を枯渇させて、魔道具を止めることが出来ると思うのですが」


 視覚を使って人の姿形を認識しているとは思えない。そんな技術、発見されていないのだから。


「う~ん」と悩んでいる。

「セレーナさんは、何だと思いますか?」 


「動きか、音か、熱か……ですかね」


「盾を構えて止まっていても攻撃されたので、動きはないかと思います。他は、今から試してみましょう」




 カーティスとわかれ、ノルマンに合流する。

 ノルマンは、呪いの対処のための魔石を沢山持っていた。


「すごく、たんさんありますね」


 一つ受け取る。


「この前は大変でしたから。万が一のことを思って、作っておいたのが役立ってしまいました」


 役立たない方がいいに決まっている。呪いなんかで苦しむ人はいない方がいいのだから。


 針を使って、呪い文字を取り出す作業にはいった。


 呪いの文字が書き込まれてしまったところが、ひどい火傷のように赤く爛れてしまっている。


 すっと針を指し、呪い文字に自分の魔力を馴染ませて、引っ張り出す。


 脂汗を流し、耐えるように小さくなっていた職員が、小さく息を吐いた。

 呪い文字をきれいに取り除けば、いくぶん痛みがマシになるようだ。


「回復は……」


「大丈夫です。回復魔法は得意なものが多いので、他の人にかけて貰います。ありがとうございました」


 魔法省には、魔法担当もいる。魔法が得意な職員も多い。ただ、自分の回復は魔法が効きづらいので、お互いに魔法を掛け合うようだ。




 セレーナとノルマンでほとんどの呪いを取り出したころ、マークが走り込んできた。


「セレーナ!! 熱だ!!」


 マークの叫び声に、顔を上げた。

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