第63話 双剣の男

「おい!!」


 もう一人、男が走り込んできた。

 気絶した男が話しかけていた男だ。


「あいつも、そこそこの手練れだったんですがね?? 誰ですか?? やったのは?」


「俺だが?」

 最後に止めを指した、マークが名乗りをあげ剣を構える。


 気絶している男は、使い込んだ防具に少し錆びた大剣を使っていた。手入れはしているのだろうが、お金はかかってはいない。どこかで雇われたならず者だったのかもしれない。

 新しく入ってきた男は、きれいな身なりをしていた。こんな襲撃の際でも、それなりの上質な服を着て、防具もきれいに手入れされていた。


「あなたは、誰ですか??」

 エドワード様の問いかけには、

「あなた様には死んで貰う予定なので、名乗る必要はありませんよ」

と、丁寧に返す。


「なんのために、こんなことをしているんだ?」


「あなたは、知る必要はありません。まぁ、敢えて言うのであれば、私たちの理想とする国を作るためと言えばいいでしょうか」


「理想とする国か?? どんな国だ??」


「あなたと、それについて同意することはできません。だから、あなたには死んで貰わないと。他のかたは、私たちの理想を受け入れていただければ、命は保証してもいいですよ。どうします?」

 そういうと、両手に握った双剣を体の前に構える。

 ギラギラとした目で首をかしげる姿が、気味悪く見えた。


 マークが一歩進み出る。

「あなたの理想は存じ上げませんが。私はエドワード様を支持いたします。エドワード様が目指す国は、少なくとも武力で解決するような国ではありません」


 この襲撃を、言外に批判している。


「へぇ~。今の方がいいなんて、汚らわしい平民なんでしょうね。貴族が作り上げたこの国で、今や実権を握り、自分達の功績のように偉そうにしている。今までの恩も忘れて、平民ばかりが活躍するなんておかしいとは思いませんか? ・・・まぁ、いいでしょう。平民の命なんて、変わりはいくらでもいるんですから」


 そういったかと思うと、マークに切りかかる。

 片方の剣を弾き飛ばして、もう一方の剣を受け止める。

 双剣の二重攻撃は、いくら身体強化でスピードとパワーをあげていても、受け流すのがやっとだった。


 何度目かの攻防の後、男は日本の剣を同時に斜めに振り下ろした。剣と剣の間が開いていて、一本の剣では防ぎきれない。

 マークは後ろに飛び退きながら、上側の剣を叩きつけるように力強く振り下ろす。


 ガツン!!


「うぅ」


 一瞬よろめいたところに、影から飛び出したウィルが、がら空きになった横っ腹を振り抜いた。


 こちらの男も壁にぶち当たり、呻いている。


 マークが素早く蹴りあげて剣を奪うと、男を後ろ手に縛り上げた。

 双剣の男は、身体強化をつかっていなかった。魔力操作は得意ではないのだろう。拘束しておけば大丈夫だ。


 セレーナは、男に歩み寄る。地面に横たえられた男に向かって、検査の魔法を発動した。


 命に関わる怪我はなさそう。


「貴方が汚らわしいといった平民出身なのは、この中では私だけです。貴族出身でも、それを奢ることなく、自分の好きなことに一生懸命になっているから、彼らは素敵なのです。頑張ることに、貴族も平民も関係ありません。昔のことばかりに気を取られていると、目が曇ってしまいますよ」


 大剣の男の方も縛り上げたが、こちがは魔法の使い手だ。このまま放置しておいたら、魔法を使って逃げ出されてしまう。


 廊下に出て、まだ動ける人を探す。

 双剣の男は、止めを指すつもりだったらしく、かなりひどい状況だった。


 怪我のひどい順に、セレーナが活性化の魔法を掛けていく。

 怪我をしている人が多いので、一人にかかりきりになるわけにはいかない。しかし、短い時間では、完全に治しきることはできない。

 セレーナの魔力には限度があるし、次々に治療をしなければ、手遅れになる人が出てきそうだった。


 一番怪我の軽い人に、宮廷魔道師を呼びに行ってもらった。

 回復魔法を掛ける人が足りない。


 傷がくっつき血が止まれば、次の人へ。どんどんと治療していき、全員命だけは繋ぎ止めた。


 そこへ、宮廷魔道師が到着した。


「エドワード様!! 魔法省が大変です!!」


「どうした??」


「魔道具が!! 禁忌の魔道具に魔石が入れられました!!」

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