第60話 開店

 濃紺の内装に、太陽の光が差し込み、小さなガラスがキラキラと輝いている。たくさんつけられた光源の魔道具だ。


 店の奥には冷蔵の魔道具がたくさん置かれていて、中にはカップごと氷菓子が入っている。

 味は、イチゴ・ミルク・オレンジの三種類。これから、季節限定の新作を出していく予定だ。

 カップは一種類しか間に合わなかったが、順次増やす予定だ。


 大通りに面した入り口には、可愛らしい文字で『アイスタ』の文字。アイスとスターをかけたものだ。

 カップにも、『アイスタ』のロゴ。返したらお金を戻すシステムだが、星をちりばめた可愛らしいカップは、持ち帰りたいと思ってもらえるだろう。


「さて、そろそろ時間ね。頑張りましょう」


 エミリーの明るい声で、オープンした。


 午後のおやつの時間。せっかくたくさんの光源の魔道具を取り付けたのだ。キラキラとした店内を見てもらうために、遅い時間に開店し、日が暮れてからもしばらくお店を空けておくつもりだ。


 エリントン家の家族や、商会のメンバーがオープン前から並んで待っていてくれた。


 カップ込みの値段なので、結構高額だ。それでもオープンに駆けつけた人たちは、たくさん買っていってくれた。

 サンチェスト魔道具店の人たちも入れ替わり立ち替わりで、店に来てくれる。

 通りを歩く人たちは、賑わう店が気になるようで、中を覗き込んでいる。

 中には、値段の高さに驚いて帰っていく客もいたが、一等地に買い物に来る人たちだ。少しくらい高くても話題の店ならばと、店に入ってくる人が多かった。



「あら? マーク様」

「あぁ、セレーナ。抜け出してきたんだけど、すごい人だな。まだ残っているといいんだけど」

「まだ、大丈夫です。夜までもつのかどうか心配なくらいですけど」

 マークがホッと胸を撫で下ろす。

「夜がきれいな店だって聞いたんだけど、今来てよかったかな」

「ウィル様も来てくれたのですね。ちょっとエミリーと変わってきます」

 エミリーと接客を代わると、すぐにウィルと楽しそうに話し始めた。

 二人で楽しそうに話し出した様子を見て、マークは注文に来た。


「三種類か。それぞれ六つずつ、十八個くれるか?」


 イルの動きが止まる。


「十八……」


 始めに来たエリントン商会がたくさん買っていくことには、なんの疑問も持たなくなっていた。

 雇ってもらってから、接客の訓練などをしていると、とんでもない金額が動いていて、エリントン家ではそれが普通だと思ってしまっていたからだ。

 それが、マークも大量買いだったので、呆けてしまったのだ。


「マーク様。皆さんと食べるのかしら?」


「あぁ、エドウィン様が、買ってこいって。ついでに、お茶会の予定も聞いてきてくれって言われていてね」

「あぁ、前に言っていた……」

「この様子じゃあ、すぐには無理そうだな」

 マークは店の中を見回す。


「二十日もすれば、少しは落ち着くかな」

「それくらいすれば、イルもネルも慣れると思うので」


「あわわ、俺ですね!! っていうか、どういう関係ですか??」

 イルが耳元で小声で聞いてくると、マークが少しムッとする。


──あの表情、久しぶりに見たわ。


「俺は、セレーナの婚約者のマーク・ハワードです。今は、皇太子の執務室の護衛兼、事務をしています」


 イルは驚いた表情のあと固まったが、胸を張って少し偉そうに話すマークに、セレーナはつい顔がほころぶ。


「マーク様、イルとネルは兄弟なんですよ。エミリー様が気に入って雇ったのです。制服も似合っているでしょ~」


「お、おぅ。その、セレーナも制服なんだな」

「お手伝いに入ることもあるので、作っていただきました」

「その、それ、可愛いな」

 カァーっと顔が赤くなる。


「お、俺、向こうの仕事、してきます!」

 イルが、急いで離れていく。


 膝丈のフワフワしたスカートから覗く、ブーツ。白いカチューシャに長めの手袋。全体的に瞬く星をイメージした可愛らしい制服は、訪れた客からも好評だった。


「マーク様。重たいので気を付けてくださいね」


 赤くなった顔を誤魔化すように、袋に詰めた氷菓子を押し付ける。


「帰りは迎えに来るよ。売り切れたとしても、光源の魔道具はつけるんだろ?」


「はい。絶対に綺麗なので、是非見にきてくださいね」




 暗くなってくると、光源の魔道具をつける。

 キラキラと夜空以上に輝く店内は、道を行く人の視線を釘付けにした。

 トマスも訪れた。芸術家肌のトマスには、もう少し調整したいところがあったようだが、エミリーに止められていた。商品はもうなかったのだが、一目でいいからと見に来る客が多すぎて、魔道具を一時消す等ということはできそうになかったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る