第53話 二日酔い
「マーク様? どうされたのですか?」
昨日、言っていた通りに迎えに来てくれたのだが、なんだが体調が悪そうだ。
「あぁ、ちょっとな……」
「昨日は、王宮に行っていたのですよね?」
不審者について、報告に行ったはず。
「何故か、酒が出た」
普段はお酒を飲むイメージのないマークだが、昨日は、オリバーのせいで、イライラしていたはず。
それで、大量に飲んだのか?
「あそこに座りましょう」
花壇に角に座らせてもらう。
マークの鳩尾あたりに手をやって、活性化の魔法を使う。
セレーナの手のひらから暖かい光が発せられると、マークのお腹がじんわりと暖かくなる。
「エドウィン様が、結構な酒のみで……。同じように飲んでいたら、この様だ」
「大丈夫ですよ。少しだけ、じっとしていてくださいね」
二日酔いということだろう。
肝臓周辺に活性化の魔法をかける。飲みすぎて、分解しきれなかったお酒を分解してくれるはず。
しばらくそうしていたら、マークの顔色が戻ってきた。
「あぁ。随分楽になったよ」
活性化の魔法を発動したまま、腕や足を撫でる。体の怠さも少しは良くなるはずだ。
「どうでしょうか?」
「すまない。助かったよ。ありがとう」
マークの顔色に注意しながら、エリントン家に向かって歩く。
「次からは、飲みすぎたら、すぐに教えてくださいね」
辛い時間を長く過ごす必要なないと思うのだ。
「そ、それは、飲みすぎたらセレーナの家に転がり込んでもいいということか?」
ただ、心配して言っただけなのだが、「転がり込む」と言われると、違う意味に聞こえてしまう。
「・・・? それは、気が早いですかね……? えっと、呼んでください」
「帰すつもりはないのだが、覚悟してきてくれるよな」
「あっ、あの!! その!! あれ? 私、変なこと言いましたね」
鼻歌交じりのマークが、機嫌良さそうにセレーナの顔を覗き込んだ。
「今日、早速、いい酒を仕入れてこようかな」
「マーク様!?」
「セレーナでも、飲めそうな甘めのものがいいかな」
「マーク様!?」
──一緒に飲むつもりなのか??
お酒は、味見程度にしか飲んだことがないのだが……。
「じゃあ、セレーナ。いってらっしゃい。アイツに会ったら、全力で逃げるんだよ」
「ふふふ。大丈夫です。マーク様もいってらっしゃい」
マークを見送ってから、エリントン家に入った。
色々済ませて工房に行くと、エミリーがすぐに抱きついてきた。
「セレーナ、昨日はデートだったんですよね? どこへ行ったのですか?」
「エミリー様……。それが、前にトマスさんが森で写生をしていると言ったのを覚えていたらしく、森にピクニックに行ったのです」
「森……??」
続きを話せという圧力がある。
「そこで、お昼を食べたのですが、不審者が現れてすぐに帰ってきました」
「ふ、不審者ですか?」
声をあげたのは、トマスだ。
帰りに話しかけてきた女性が、トマスの思い人で間違いなければ、彼女の住居の近くで不審者が出たことになる。
「森の中に逃げていったので、何故そこにいたのかはわかりませんが」
「そ、そうですか」
「何故、トマスが、慌てるのですか?」
エミリーが首をかしげているが、暴露しては、……いけない気がする。
「・・・・エミリー様。実は、面白いものを作ったのですが、出してもよろしいですか?」
途端に目を輝かせて、セレーナの荷物の中が見えるほど乗り出してくる。
「なにかしら?」
バックの中から小さな冷蔵の魔道具を取り出した。
「これです。見てくださいね」
扉を開けて、中身を取り出す。昨日、魔道具が出来上がったあと、小さな皿に水を満たして入れておいたのだ。
「これ、氷です」
「へっ??」
「サンチェスト魔道具店で売っていたものですが、個人的に作る許可をもらったので、作ってしまいました。強力な、冷蔵の魔道具です。これは試作品ですが、もうすこし大きいものを作ったら、エミリー様に使っていただきたくて。カミラさんなら、氷菓子も作れるのではないですか?」
喜んでくれているかとエミリーをみれば、頬を赤らめている。
──喜んでいるというより、なにか思い付いてしまったような……
「セレーナさん!! 今からサンチェスト家に行きましょう!! カミラ! 馬車の手配をお願い。それから、先触れを出しておいて」
「えぇ~!! サンチェスト家ですか?」
「そうよ!! 冷蔵の魔道具を購入させてもらわないと」
個人的に使う分には、作ってもいいと許可をもらっているのだが、この様子だと、個人的の範囲には収まらないようだ。
「フルーツを小さく切って凍らせただけでも、美味しそうよね」
──お店でもやりそうな……
セレーナの予想は当たる。
サンチェスト家で、氷菓子用に冷蔵の魔道具を十台も購入した。それから、サンチェスト魔道具店の近くで空き店舗がないか、オーナーであるシオンネに尋ねる。
持ち帰り専門の店舗でよければと紹介してくれた場所をすぐに借りてしまった。
シオンネも、氷菓子を買った人が、サンチェスト家の魔道具にも興味を持ってくれるのではと、かなり協力的だ。
「カミラ! お仕事よ。美味しい氷菓子を考えてちょうだい。食べながら歩けるように、カップに入れて、カップはどうしましょう。返しに来てくれたら、お金を返すスタイルはどうかしら?」
「使い捨てのものが作れればいいのですが」
セレーナが考えても、いいものは思い付かなかった。
「それは、追い追い検討しましょ~。まずは、メニューね!!」
握りこぶしを胸の前でブンブンふってやる気のエミリーを、セレーナは落ち着いた様子で窘めた。
「エミリー様。その前に、従業員です」
「あら、そうだったわ」と、初めて気がついたような顔をしたエミリーに、シオンネは微笑む。
「ふふふふふ。エリントン家のお嬢様は、こんなに元気な方だったのですね」
「シオンネさん!! やっぱり、可愛くて美味しい甘味を売っているのは、可愛らしい女性がいいいですよね!?」
「う~ん。そうですね。女性が買いに来ることを想定したら、爽やかイケメンもありかもしれませんよ」
この二人、気が合いそうだと思うのは、セレーナだけだろうか……?
「そうよね!! ウィルのお友だちに、誰かいないかしら?」
──確かにウィル様は、爽やかイケメンだけど、お友だちまでそうとは限らないんじゃないかしら?
~・~・~・~・~・~・~
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