第45話 同じときを歩む
店内くまなく見ることができて、セレーナは満足していた。
見るだけ見て、買うこともなく・・・逆に、冷蔵の魔道具は真似をしてもいいという許可までもらってしまった。
シオンネも嫌な顔ひとつせず、ずっと案内してくれたのだ。
商品のヒントを貰っていると言ってくれているが、それくらいお安いご用だと思う。
「今度は、購入するためにきますね」
「気にしないでください。セレーナさんには、商品のヒントもたくさんもらいましたし、プレゼントがあるんです。ちょっと待っていてくださいね」
そう言うとシオンネは、店の奥に入っていった。
機嫌の悪そうな気配が漂うマーク。セレーナは目を見て微笑むと、
「マーク様、今日は本当にありがとうございます。ゆっくり見たかったので、嬉しかったです」
マークは微妙な顔をする。
「セレーナは、皆に人気すぎて、妬いてしまう」
「えぇ! そんなことありません。魔道具についてだからお話しできるだけで」
そう言うと、マークは苦笑いをした。
「俺も魔道具を考えた方がいいかな?」
「どうしてですか?」
セレーナが首をかしげていると、
「もう一稼ぎして、早く結婚しないと、安心できないな。これでは、一人で外にも出せそうにない」
セレーナは、元々大きな瞳をさらに大きくした。
シオンネと魔道具話で盛り上がりすぎてしまったのだろうか?
セレーナとしては、仕事の話をしているくらいの感覚だった。
「マーク様ったら、大袈裟なんですから」
微笑みかけるセレーナに、マークの機嫌は戻ってきたようだ。
「でも、セレーナは、新しい商品があったら嬉しいだろ?」
「えぇ。でも、最近は忙しくて、何も思い付かないのです」
それが、残念でもある。
「魔道具を考えるときって、どうしているんだい?」
「う~ん」と首を捻ったあと、
「こんなものがあったらいいなぁ~って思う魔道具とか、不便なことを解消する魔道具を考えるとかですかね」
マークは少し驚いたようだ。
「不便なことを考えるのか?」
「実現可能かは置いておいて、不便を教えてもらったら嬉しいですね」
マークはポリポリと頭を掻いて、考えているようだ。
「それくらいなら、俺でもできそうだな」
「ふふふ。急にどうしたのですか? 魔法ならともかく、魔道具の作製にはあまり興味がないのかと思っておりました」
「セレーナの好きなものは、少しは知っておかないとね」
心臓が、トクンと音を立てた。
逆にセレーナもマークが好きなことを知っておきたい。
いつも話すことは、仕事で起きたことの報告が多い。
「では、マーク様の好きなものはなんでしょうか?」
剣の鍛練はよくしている。男性にしては甘いものをよく食べるが、これはセレーナに付き合っているだけかもしれない。
「セレーナ……」
かぁーっと顔が熱くなった。
「えっ?? そういうことを聞いているのではありません!!」
ぷくっと膨らんで抗議したが、愛おしそうに瞳を覗き込まれてモゴモゴと黙る。
そこへ、シオンネが戻ってきた。
「これなんですが」
そういいながら箱の蓋をとると、小さな目盛のついた魔道具が入っていた。
「これは?」
「時の魔道具の携帯用です。携帯用が欲しいとおっしゃっていたので、作ってしまいました」
小さな目盛が精巧に作られていて、綺麗だった。
「すごい……」
マークも箱の中を覗き込んだ。「ほぉ~」っと声を漏らしている。
「こちらがマークさんのぶんです」
箱を開けると、同じものが!
「婚約おめでとうございます。二人で同じ時を歩んで欲しいという意味を込めて、作らせてもらいました」
──何て素敵な、プレゼントだろうか? お揃いというだけでも嬉しいのに。
「こんな素敵なものいいんですか?」
セレーナが感激の声を漏らす。
マークも目を丸くしていた。
「俺までいいんですか?」
「いいんですよ。恋人に送るプレゼントとして、宣伝しようと思ったのは、お二人の婚約を知ったからなのですから。ある意味、お二人のお陰ですね」
──誰から聞いたのだろうか?
・・・まさか、ディエゴ??
ディエゴの魔道具仲間って、まさか、サンチェスト魔道具店の人だったのでは??
すると、シオンネが声のトーンを落とす。
意味ありげに口角を上げた。
「それに、今朝、この魔道具、ビックリするほどの大量注文がありました。ありがたいですね~」
──なんだろう?
棒読みだ。本気ではありがたいと思っていないかのような。
──何かに気がついて欲しいのか?
時の魔道具の大量注文。大量ということは、仕事で使うのだろうか?
「それは、いくつくらいなのですか?」
「30ですね。忙しくなりそうです」
確かに大量注文。個人や家族で使うには多すぎる。
店舗や工房で使うのなら大きい方を設置した方が見やすくていいだろう。
個人に配布して、別々の場所で使うということだ。
なぜ、シオンネは思わせ振りに話したのだろうか?
セレーナに伝えたかった? それとも、マーク??
わからないことは多いが、一応聞いておく。
「30だと、サンチェスト魔道具店でも時間がかかってしまうのですか?」
「そうですね。他の仕事もあるので十日ほどですかね」
シオンネは、マークの顔を見て微笑んだ。
「さぁ、私は次の仕事がありますので、ゆっくりしていってくださいね」
魔道具が時を刻み動くところを、しばらく見ていた。
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