第44話 魔道具店満喫

 暖かい日差しの中、セレーナはマークと並んで歩いていた。

「マーク様、ありがとうございます」

 マークの穏やかな微笑みに、ほっこりとする。


 母の墓参りに行ってきたところだ。二人の手はしっかりと握られている。


 キラキラしたサンチェスト魔道具店が見えてきた。

 マークが予約を取ってくれたわけではなく、ハワード魔道具工房に招待の手紙が来たのだ。ディエゴがハワード家の前で受け取った。


 入り口で出迎えてくれたのは、前に来たとき、帰り際に声をかけてくれた店員さんだった。

 服装は落ち着いていて、質がいいのが一目でわかる。物腰の柔らかそうな店員だ。

「今日は、ようこそおいでくださいました。私、サンチェスト魔道具店のオーナーをしております、シオンネと申します」

 この前の店員さんは、オーナーだったらしい。

 セレーナが驚いていると、

「お招きいただき、ありがとうございます」

 マークが挨拶をした。

「いつ来てくれるのかと、首を長くして待っておりました。今日は、ゆっくりと見ていってくださいね」

 セレーナに向かって微笑みかけ、エスコートするように店内に招き入れた。

 手を繋いだまま一緒に店に入ったマークは、無表情を張り付けている。


 まず目に入ったのは、録音の魔道具。


──やっぱり、この魔道具、貫禄があって素敵なのよね。


「そちら、もう少し小さくならないかと試行錯誤中です」

「あのあと、何に使えるかと考えたんですが、色々考えてしまいました」

 魔道具の複雑な使いかたを考えてしまうと、ついつい、母のことを思い出してしまった。

 墓参りの後だから、余計に思い出してしまったのかもしれない。

 母なら使えただろうから、声を吹き込んでもらっておけば良かったなぁと。


 セレーナの母は、魔法の使い方がうまかった。

 セレーナが魔法を器用に使えることも、魔道具製作が好きなことも、母譲りだ。

 両手で魔力を込めながら、魔力をのせて発声するなどという複雑な魔道具でも使えると思ったのだ。


 マークが、うつむいたセレーナの頭を撫でる。

 安心感がある大きな手。


 セレーナは、しんみりした気持ちを悟らせまいと、勤めて明るい声を出す。

「私、この魔力を流すのと、声をを出すのは同じ人じゃなくていいと思うんですよね」

 シオンネが優しく微笑み、大きく頷いた。

「そうですね。魔道具の起動と声の吹き込みは分担できますね」

「それでしたら、魔力の扱いがうまい歌手のかたや俳優さんに吹き込んでもらえれば、歌やお芝居が好きなときに聞けるのではないでしょうか?」

 録音するのが大変な反面、聞くのは簡単だったのだから、間違えて消してしまうこともなく、良い商品になると思うのだ。

「それは、名案ですね!! できる人を探してみます」

 シオンネが、キラキラとした笑顔を見せた。


 セレーナは店の中を見回す。

 前に来たときに比べて、新しい魔道具が増えたわけではなさそうだ。前には見られなかった、普及率の高い魔道具を見せてもらいたかった。

「あの、あのへんの魔道具を見せてもらいたいのですが」

「もちろん、どうぞ。案内しましょうか?」

 シオンネが案内してくれるようだ。マークが無言でセレーナの腰に手を回した。

「マーク様!」

 セレーナは驚いて、マークを振り返る。

「俺も魔道具について、教えて欲しいな」

「そうなのですか?」

 マークと視線が絡み合う。マークがにこりと笑った。


「これは、冷蔵の魔道具だよな?」

「えぇ、そうですね」

 扉を開けて中を覗き込む。魔力文字が見えた。

「わぁ~。これ、すごいですね。魔力文字がとっても綺麗ですし、すごく冷えるみたいです」

 興奮して、目をキラキラさせたセレーナに返事をしたのはシオンネだ。

「セレーナさんには解りますか!? これは氷菓子専用の魔道具です」

 嬉しそうに、笑顔で答える。

「氷菓子ですか?? うちにも一台欲しいです!!」

 セレーナの目には、魔道具以外、入らない。

 少し、魔道具に近づく。

「セレーナさんなら、自分で作ってしまわれるのではないですか?」

「えっ? 参考にして作って良いのですか?」


──本気で言っているのだろうか?


 魔法文字を見れば一目瞭然で、真似できてしまう。でも、そこを真似しないのが、マナーではないのか?

 せめて新商品のうちだけでも、真似してはいけない気がする。


 真意を確かめたくて、シオンネに詰め寄り、首をかしげて見上げる。

「もちろんですよ。色々な案もいただいていますし、是非作ってみてください」

 瞳の奥をじっくり見ても、嘘ではないようだ。


 マークが、グイッとセレーナを引き寄せた。

「セレーナはこれが作れるのか? それって、すごいんだよな? 俺は魔道具は詳しくないから」

 マークが、セレーナに視線を落とす。

「そりゃ、セレーナさんはすごいですよ。うちの魔道具店で働いてもらいたかったくらいです。セレーナさんの卒業が皆と同じ時期でしたら、逃さなかったのですけど」

 シオンネが、本当に悔しそうにいうので笑ってしまった。


 父の商会の廃業までに卒業しなければならなかったので、特別に単位をもらい卒業させてもらった。そのために人よりかなり早い時期に卒業したのだ。


 加熱の魔道具を見せてもらい、光源の魔道具のところにつく。

「これが普通の魔道具だよな?」

 マークが不思議そうに光源の魔道具をじっくり観察している。

 どこの家にでもある、魔道具だ。

 それにシオンネが答えた。

「そうですね。シンプルな魔道具なので、デザインで勝負ですね」

 デザイン性に優れている工房に納めて、台座などを作ってもらうらしい。だからサンチェスト魔道具店にはシンプルなものしか置いていないと。

「こう見ると、うちに転がっている魔道具はすごいんだな」

 マークの家に転がっているのはセレーナが作った、光が調整できる魔道具だ。

「そりゃあ~、すごいって、言葉では言い表せないほどですよ」

「いいすぎです!」

 少し照れたセレーナに、マークがムッとしたが、すぐに表情を戻す。

「私も、実は、注文したんですよ。できるのを楽しみにしています」

 同業者であるシオンネが注文してくれたことは、嬉しかった。


「では、最近作っているものに、シオンネさんのものがあるのですね」

「大きいものが欲しくて、特別に注文してしまいました」

「あぁ! あれですか」

 マークの周りから冷気が漂ってきている気がして、慌てて他の魔道具に移動した。

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