第40話 前の静けさ
昨日一日休んで、セレーナは回復したようだ。
顔色が完全に戻ったかといわれると、俺はまだだと思うのだが。
今日は、仕事を溜め込んでしまったからと、早朝からエリントン家に向かっている。
不本意ながら、カーティスも一緒だ。
ノルマンに診療所を任せて、今日一日セレーナに付き添うようだ。
別に付き添わなくてもいいのに……。
ディエゴやギルバートならともかく、他の男と親しくしているのを見るのは面白くない。
呪いの魔道具騒動のせいで一緒に行動しているのだから、それくらい許すべきなのだろうが、カーティスは腕の立つ魔道具師だ。セレーナと話が合う。
俺は自分の仕事に行かなくてはならないし、なんかモヤモヤして足取りが思い。
昨日は呪いの魔道具は見つからず、患者も来なかった。
魔力切れを起こしているセレーナは、大事をとって一日うちでゆっくりしてもらった。
エリントン家の仕事は休むことになるので、俺が伝えにいったのだが、エミリー嬢が発した第一声が、「婚約はしたのですよね?」だったのだ。
たじたじになりながら、「まだです」と答えれば、エミリー嬢が拳を握りしめて怒り出した。
「口約束だけなら問題ありませんよね? 親に筋を通すのは、セレーナさんの返事をもらったあとでも遅くはないですよね?? マークさんは、腰抜けですか!?」
まさか、「腰抜け」とまで言われるとは思わなかった。
すぐに次のディナーの予約を取るべきだと言うので、帰りがけに予約を取ったところだ。
少しだけ、怒るエミリー嬢をみて、尻に敷かれるウィルを想像してしまったことは内緒だ。
「マーク様は、今日も見回りですか?」
「だぶんな」
王の隣国訪問の護衛のあと、皇太子の書類仕事の手伝いをしていたのだが、今回の騒ぎで見回りに駆り出されていた。
皇太子としては、この騒動の真相を直接聞きたいということだろう。
俺たちが人選されたのは、見習いの俺たちなら長時間席を外していても影響が少ないと思われたのと、元騎士だから自分の身は守れると思われたからだ。
そのお陰で、ちょくちょくセレーナの様子を見に家に帰れたのだから、文句を言うべきではないのだが……。
魔道具が見つかったと報告を受け、駆け付けて回収していると、角を曲がった先から魔道具の鳴るけたたましい音が聞こえてくる。
犯人の通った道を後ろから追いかけているのかと思えば、背後から聞こえることもあって、精神的にドッと疲れてしまった。
すべて回収したから昨日は患者がでなかったのか?
それとも嵐の前の静けさか?
俺が考え事をしている間に、セレーナとカーティスはエリントン家で販売している光源の魔道具について話していたようだ。
「いや~。この目で作業を見られるとは思っていませんでしたね」
嬉しそうなカーティスの声が耳につく。
「えぇ。企業秘密はありませんので、見ていて構いませんよ」
「セレーナ? 作業を見せるの?」
この後、ずっと近くで過ごすのかと思うと、つい聞いてしまった。
「えぇ。一般的な技術なので」
「それがすごいんですよ。一般的な技術で、あの精巧な魔道具を作ってしまうんですから」
カーティスが握った両手を上下に動かし興奮とともに訴える。
魔道具に詳しくない俺では、セレーナの本当のすごさがわかっていないのかもしれない。
光源の魔道具はきれいで高価だから、すごいんだろうくらいの認識だった。
もう少し、魔道具についても知るべきなのかもしれない。
「あっ! カーティスさん。呪い文字の正体はわかりましたか?」
呪いの魔道具の針の中に入れられていた呪い文字のことを、セレーナはそれをずっと気にしていた。
「うちの国では、取り締まりが厳しくて技術が知られていないので、大量生産することは不可能だと思うのですよね。まぁ、絶対ではないのですが。国外では呪いの事件が起きているんで、持ち込まれたと考えた方が自然ですかね」
「国外ですか? どこの国が多いんでしょう?」
セレーナの問いにカーティスが即答する。
「ペイズハント帝国ですね」
「ん~。帝国ですか。領地も接していますし、持ち込まれたんですかね?」
ペイズハント、ペイズハント……。
「ペイズハント帝国!?」
その国名にあることを思い出す。
「マークさんは帝国に詳しいですか?」
「いや、詳しい訳じゃないんだが……。前に国王様がグラスコート王からもらった種だが、元はペイズハント帝国からわたったものらしいんだ」
セレーナが検査の魔法で毒が含まれていることを発見したものだ。あのあと、王宮にて厳重に保管されている。
「ん~。偶然でしょうか?」
セレーナは、悩み始めてしまった。
たしかウィルから聞いた話だと、グラスコート王国がペイズハント帝国に外交に行ったときに貰ったそうだ。
小麦がよく取れるような温暖で肥沃な土地でよく育つと言われたらしい。何がなるかは植えてからのお楽しみだと。
俺の右隣にさっきまであった暖かい気配がない。セレーナが隣を歩いていないことに気づき、振り向く。
立ち止まって、通行人の手元を凝視するセレーナがいた。
「セレーナ? どうしたんだい?」
「検査の魔法に反応があります」
検査の魔法………毒ってことか?
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