第39話 患者の途切れない治療院
朝日が差し込む部屋で瞳を開けた。
頭が痛くて起き上がれない。それでも、なんとかからだを起こして、部屋を出る。
とにかく水が飲みたい。
「あぁ、セレーナさん。体調は……悪そうですね。実は、もうすでに患者が来ていまして……」
「水を飲んだら、向かいます」
私がやらなければ人死がでる。
「でも、体調が……」
「同じ症状ですよね? 遅れると、人命に関わりますから」
厨房に向かいグラスに水を注いで、一気に飲み干す。
顔を洗い身なりを整えて、患者のもとに向かった。
「お待たせしました。少し見せてくださいね。ちょっとチクッとしますよ」
部屋には、呪い用の魔石がたくさん準備されていた。セレーナの記憶ではほとんど残っていなかったのだから、カーティスとディエゴが作っておいてくれたのだろう。
ギルバートがやってきた。
「次の患者がいらっしゃっています」
「すぐに呼ぶので、待っていてもらってください」
「それから、カーティスさんと数人が」
カーティスは、昨日も手伝っていてくれたのでありがたい。誰か人をつれてきてくれたのだろうか?
「カーティスさんのほうは通してください」
すぐにカーティスは入ってきた。連れているのは部下のようだ。
「おはようございます。早い時間から、ありがとうございます。彼はノルマンといいますが、器用なので連れてきました。ノルマン。すぐに見て覚えてください」
ノルマンは軽く断りをいれると、セレーナの斜め後に立ってセレーナの手元を覗き込み始めた。
針から魔力を流し込み呪い文字を浮かせると、針の先で引っ掻けて引っ張りだした。
「うぅ……!! 本気ですか??」
ノルマンが驚きの声をあげる。
セレーナは最後の呪い文字を取り出すと、傷まできれいに直して患者を送り出した。
「カーティスさん! 神業ですよ!!」
「それでも、やらなければ。セレーナさん一人では、間に合いません。事態は小さいうちに収束させたいのです。問題が大きくなると、魔法省が作ろうとした魔道具が原因と騒がれるかもしれません」
実際、魔法省が作りたかったものとは違うのだが、見た目がいているのだから噂がたってもおかしくない。
「わ、わかっていますけど!!」
セレーナとしても、魔力が切れかかっているので、助けてもらえるのであればありがたかった。
「ノルマンさんは、魔道具を作るときに間違えてしまったところは修正しますか? それとも初めからすべてやり直しますか?」
魔道具を作るとき、少しであれば間違えたところだけ消して書き直す。魔力文字を消すときには自分の魔力を文字に馴染ませて剥がしとり、その上から新しい魔力文字を書き込んでいく。
呪い文字を取り出す作業は、魔力文字を消す手順に非常に似ている。
細かい作業だから、誰にでもできるわけではないが。
ただ、魔道具製作の修正でも一部分だけ書き換えることがどうしようもなく苦手な魔道具師はいる。そういう魔道具師は、どんなに長くてもすべて書き直すのだ。
そんな魔道具師は、呪い文字を取り出す作業も苦手だろう。
「修正しますよ。面倒ですからね」
「その要領です」
「はぁ~」
納得できないと顔に書いてあった。
次の患者の処置をしている間に、新しい患者が入ってきてしまったので、ノルマンは仕方がなく手伝うことにしたようだ。
患者には、まだ見習いだが、少しでも早いほうが体に良いと説明した上で。
ノルマンは四苦八苦しつつも、呪い文字を除去することができるようになった。
「おはようございます。ここも人が増えましたね」
マークが戻ってきた。カーティスがそれに答える。
「あぁ、お邪魔しています。そちらの進捗状況はいかがですか?」
「う~ん。俺たちが駆けつけた後でも魔道具が鳴るんですよ。おかしいと思いませんか?」
鳴った魔道具は回収して、住民には魔道具が鳴っているときには近づかないように周知しているようだが。
魔道具事態は魔力を多く使用する割に小さな魔石しか入っていないので、しばらく放っておけばエネルギー切れを起こして鳴りやむのだ。
不快に感じるほどの音量が、問題だが。
「魔道具を置くのは簡単なのですから、目を盗んでやっているのではないでしょうか?」
カーティスは首を傾げながら、
「あぁ、でも、魔道具を置いてから逃げるまでの時間が必要ですね」
と自問自答し始めた。
「犯人が全くわかりません。おちょくられている気分ですよ」
「魔道具がすべて回収されれば、被害はでなくなると思うのですが。この状態が続いては、さすがに持ちません」
ちらりをセレーナのほうを向いた。
セレーナの顔色は悪くなるばかり。
「セレーナには、これを」
マークが幾つかの薬草が入った袋を取り出した。
「見回りの途中でエリントン家に寄ったんだ。料理長の指示で、アルロが用意してくれたよ」
昨日倒れてしまったセレーナのために休む旨を伝えに行ってくれたのだろう。エリントン家でも魔力切れで倒れたことのあるセレーナに薬草を用意してくれたらしい。
「マーク様。昨日はすみませんでした」
せっかくディナーの予約をしていただきましたのに……。
事情を知らないカーティスとノルマンがポカンとする。
「あぁ。大丈夫。ディナーは、また予約すればいいんだ。今はこちらを頑張ろう」
ニヤリと笑ったディエゴが、からかう。
「口約束だけでもしちゃえばいいんじゃないですか? 証人は多い方がいいでしょうし。特に、セレーナさんの場合は」
視線を彷徨わせて、何の話か探るようなカーティス。
「あ、あの!!」
「ほら~。セレーナさんにも伝わっていますし」
いや、そういう意味で慌てているわけではない。
「ちゃんと、セレーナのお父様に許可をいただきたいんだ」
「あ、あの!!」
慌てるセレーナに、なぜか納得顔のカーティス。
「そういうことですか。私がここで見張りたいと言い出したとき、当主に断りもなく泊まることを了承していたので、不思議に思っていたのですが、そういうことでしたか~」
勝手に納得しているカーティス。
セレーナは、この話を持ち出した同僚に向かって声を上げる。
「ディエゴさん!!」
「ははははは~」
ディエゴには笑われてしまったが、今のは絶対にディエゴのせいだ。
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