第37話 容疑者?

 偉そうな人は、魔法省の魔道具担当の室長でカーティスというらしい。

 魔力切れで、ヘロヘロになっているセレーナに食べ物を差し入れてくれた。

 近くの屋台で買ってきたものらしい。薬草にもなる香辛料が多く入っていて、スパイシーな味だった。

 自分が魔力を使うときに良く食べているのだとか。

「そろそろ、よろしいですか? 聞いて置かなければならないことがあるんです」

 セレーナが頷くと、彼は優しそうに微笑んだ。

「今回は、魔法省の職員を助けていただき、ありがとうございます。それで、彼らが呪われた理由なのですが、……不審者進入防止用の魔道具なのです」


 それは・・・


 オリバーに頼まれて、セレーナが作ったものだ。


「魔法省に勤めるオリバーというものが作ったのだが、彼は貴女が作ったと主張しているのです。作ってもらったときに試運転もしておらず、どんな仕掛けがあったとしても自分は関与していないと」

 確かに試運転はしていない。ただ、呪い文字の仕掛けなど身に覚えがなかった。

「それは、本当に私が作ったものなのでしょうか?」

「今日のセレーナさんの様子をみていると、これが自作自演とは思えないのですが、容疑者であることには変わりません」

「呪いの魔道具には、かなり特殊な部品が使われているのではないでしょうか?」

「そうですね。針の部分がかなり特殊なのですが、セレーナさんであれば加工は可能かと思いますよ。かなり器用なようですから」

 処置をじっくり観察していたのは、セレーナを観察するという意味もあったようだ。

「そうなのですか……。私が作ったものは設計図を描けますが、彼は、こっそり違うものを作っていたと主張しているのですよね。どうしたら、私の無実は証明できますか?」

「同僚を助けてくれた貴女を疑いたくありませんが、しばらく見張らせていただけますか?」

「えぇ。それくらいなら」

 女性に独り暮らしの部屋よりも、ハワード家にいてくれたほうが見張りやすいといわれ、まだぐったりしている患者もいるので、泊まらせてもらうことにした。

 帰ってきたマークが抗議していたが、カーティスの判断が覆ることはなかった。




 ハワード家にいるのであれば、今日使いきってしまった呪い用の魔石を作っておこうと作業を進めている。

「セレーナ、少し休憩しないか?」

 飲み物を持ってきてくれたようだ。一応、同じ部屋にいるカーティスにも。

「マーク様。ありがとうございます。室長さんの作業がとても早くて助かりました」

 使いきったものを全て作れたわけではないが、魔力が切れかかっているセレーナの変わりにカーティスが作ってくれたのはありがたかった。

「私が疑われているということでしたが、他に容疑者はいないのですか?」

 どうしたら自分の無実を証明できるかわからなかったが、少しでも情報がほしい。

「呪いの魔道具を、誰かが持ち込んだ可能性はあるんです。セレーナさんが魔道具を作ったときに、オリバーと一悶着あったそうですね。魔法省の長官が立ち会ったそうですが、そのときにみた魔道具と見た目が違う気がするといっているんです。ただ、じっくり見たわけではないから自信がないらしくて……」

「見た目が違う? ということは、もし、違うものだとしたら、とても似ているということですか?」

 あのとき、魔道具があるところで話を聞かれたはずだ。全然違うものなら、長官が気がつくはず。

「そういうことですね。違う気がするけれど、大きさとか形は似かよっていて、絶対違うとはいいきれないって感じでしたよ」

「あの魔道具を設計するときに、オリバーさんからはベルの大きさと指示がありました」

 人を呼ぶときに上から叩いて鳴らすベルのことだ。

「ベルの大きさ……。小さいですよね?」

「はい。ですから、一般的に音をならすための魔力文字は入りきらず、新しい素材を使わざるをえませんでした。誤動作などで警戒音が鳴ったときには止められるようにしてほしいと。目立つところにボタンをつけました」

「そのボタンはどこにつけたか覚えていますか?」

「真ん中から少し横にずらしたところです。認定されたカードをかざす部分を一番目立たせたかったので、ドーム型の一番真ん中にしました。ですから、ボタンは横によってしまったのです」

「その話が本当だったら、やっぱり違うものかもしれないですね」

 もし、すり替えるのなら大きさが違っては目立つ。

「オリバーさんは、なぜベルの大きさといったのでしょうか?」

「誰かの指示があったのかもしれないですね。調べてみますよ」

 そこで、マークがカーティスに問いかけた。

「セレーナは、いつまで見張られるんでしょうか?」

「しばらくは、このままかな。もし呪いの魔道具を作ったのなら野放しにしておけないし、逆にそうでないのなら守られるべきだろうからね。別に私が近くにいるだけだよ。気にせずにいつも通り生活してくれて構わないよ」

 マークはしばらく無言だったが、「気にするよ」と呟いた。




 二階の部屋で一晩過ごした。カーティスはセレーナのいる部屋の前で壁に寄りかかりながら寝たようだ。

 この状態が長引いたら、体を壊してしまうのではと心配になった。

 いつも通り生活していいというのなら、エリントン家に向かおうと支度していると、周囲が騒がしくなる。

 マークが対応すると、昨日と同じ症状の患者だった。

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