第22話 事件の黒幕

 派遣された騎士の中に、三名もの反逆者が混ざっていたらしい。

 元々騎士として働いていたものだ。


 マークが最後に吹き飛ばした者がギリギリ生きていて、証言を聞けた。


 首謀者は、マグダレーナであると。


 マグダレーナは、国王を打ち、それをウィルの手柄とし、次の王に彼を据えようと画策していたらしい。マグダレーナの命令を実行したものは、貴族社会を取り戻したときに、爵位が約束されていた。


 王宮の中でも騒ぎがあった。皇太子が狙われたのだ。

 王宮の中に大人数を送り込めるわけもなく、精鋭が3人送り込まれた。誤算だったのは、国王の警護をしているはずのダリウスが皇太子のそばにいたことだ。

 片時も離れなかったダリウスが討ち取った。相手が精鋭であっても、一度は国一番の騎士だった男だ。制圧するのに、そう時間がかからなかった。


 王宮での事件が起きてから国王へ使いが出されたが、合流したときにはすでに襲撃が起きた後であった。



 それらが書かれた指示書も発見され、サインはなかったものの筆跡がマグダレーナのものと一致したのだ。

 指示書を取っておくなど愚の骨頂だが、自分が作戦に関わったと証明するために必要だったらしい。

 自分の信念や政治思想のための犯行というよりも、職位が目当てだった。




 政治の中心は、第三側妃の犯行に騒然となったが、近衛騎士によってマグダレーナは捕らえられた。今回は騎士から裏切り者が出ているのだ。騎士には任せられないと思ったのだろう。




 マークとウィルは、王都についても、事件の概要がわかるまで王宮から出られなかった。事件の反逆者には帰りの道すがら事情を聞いていたので、かかった日数は長くはないのだが。


 報告と事情聴取があると集まったのは、関係者とみられている人物だ。

 襲撃を受けたマークとウィルを含む騎士のメンバーはもちろん、その派遣を決めた騎士団長が呼び出されていた。




 事件の概要の説明が進むと、騎士団長がイライラし始める。


 自分が信頼して仕事を任せた者が裏切ったのだから、腹を立てるのは当たり前か?


 それにしても派遣された騎士の中に反逆者が三人もいるのは、多すぎる気がするのだが。

 反逆者の説明では、外交の護衛が決まってからマグダレーナの指示を受けたということだった。


 護衛のメンバーの中で裏切りそうな者に声を掛けたということか?

 それならば、護衛のメンバーをどうやって知ったのか?


 騎士団長は問われていたが、「俺に聞かれてもわからない」の一点張りだ。

 「何してくれているんだ!?」とか、「愚図が!?」などと小さい声で悪態をついているのがマークの位置からは確認できた。


 結局それ以上の事実は出てこずに、解散となった。




 これで家に帰れる。セレーナはまだいるだろうか?と考えていると、ラエフが来て「これから来てほしい」という。

 呼び出されたのは、マークとウィル。

 ウィルだけでいいのでは?と思ったものの、不安そうな顔を見せる友人を放ってはおけず、ラエフについていった。




 やはりというか、想像通り満面の笑みの国王がいた。

「ウィル坊の嫌疑が晴れてよかったよ。ここに座りなさい」

 驚くウィルを促して、国王の向かい側に座らせると、マークはウィルの後ろに騎士として控えた。

「そなた達の活躍は聞いているぞ。あの数の賊をほとんど二人で討ち取ったんだとな」

 ウィルが恭しく頭を垂れると、国王が慌てて付け加えた。

「私は息子とその友人に話しかけているのだ。そちらも息子として返事をしてくれよ」

 国王に王族でなくなったウィルが、息子として話すとはどうすればいいのか?マークは不憫に思いながらも見守るしかなかった。

 ウィルは、「はい」とか「えぇ」とか「いえ」とか、とにかく返事に困っている様子だった。




 国王の話では、改革の後、側妃は家に帰して、子供だけは王宮で育てようとしたようだ。


 まだ赤子だった子供を母親と離ればなれにするよりも、母親と一緒の方が、王族としての記憶のない小さな子にとってはいいのではないかと言われたそうだ。

 王族として贅沢な暮らしをしている大きな子供達も、王宮に残ったとして質素な生活になってしまう。それならば支援金と自分の給料を合わせて、そこそこの暮らしをした方がいいのではないかと。

 皇太子以外の子供は平等にしなければならず、最終的には使える税金が限られているという理由で市民とすることに決まった。


 万が一のことが起こり、王位継承権が回ってくるまでは自由である。


 最低限の生活費は支給されているので働かなくてもいい。逆に働いて儲けた分はいくら贅沢をしてもいいのだ。


 子煩悩な国王には、子供達の居場所は伝えられなかった。会いに行ってしまう可能性が高かったからだ。

 マークからみてもそう思えるのだから、酷ではあるが賢明な判断だったのだろう。知っているのに会いに行けない方が辛いだろうから。


 諦めきれない国王は、普段から子供の影を探していた。「あの子はもう働いているはず」「あの子が成人した」と把握していたというのだから、いかに愛おしく思っていたのかがわかるというものだ。


 今回の護衛騎士の中に、ウィルの名前を見つけたときには、飛び上がったという。国王の後ろに控えるラエフが苦笑したので、本当に飛び上がったのだろう。


 自分譲りの金髪と、面影の残る青年を見つけたときには心臓が止まるかと思ったそうだ。


 それでも名もない騎士一人を優遇するわけにはいかない。そこで白羽の矢を立てたのがマークだった。マークであれば父ダリウスの大きな貢献を理由に近くにおくことができる。相棒もつれてこいと、ウィルが来れるように取り計らった。


 グラスコート王国との話し合いに呼びたかったのは、やはりウィルだったのだ。


 このまま国の仕事を手伝わないかと誘われていた。


 ウィルが迷っていると、この機会を逃したくない国王が勝手に決めてしまった。

「やってみて合わなければ、やめればいい。それから、マークを専属騎士として雇おう」


 ウィルは強さだけみれば護衛の騎士は必要ない。ただし公的な場所に行くには護衛を連れている必要がある。

 普段は護衛としてというより、助手として机仕事が多くなるだろう。


 マークはついつい嫌そうな顔になってしまった。

「セレーナちゃんに教えてもらえばいいさ」

 ウィルはマークをからかったつもりだろう。しかし、この発言が国王をやる気にさせた。

「ウィル坊にもお嫁さんが必要だね。誰がいいかな」

 「エミリー嬢」と即答できるわけもなく、ウィルはひきつった笑顔を張り付けたままであった。


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