第21話 襲撃
「ウィル様のためにぃ~!!!」
「おぉおぉおぉおぉおぉおぉ~!!!」
地響きのような声が響き渡る。
叫びは、ウィルのために国王を打ち、ウィルを国王、もしくはそれに近い地位に据えたいということだ。
──このままでは不味い。ウィルが裏切っていたと思われる
この場にいなくても、捜査が及び、場合によっては反逆罪に問われるだろう。それがこの場にいるのだ、かなり心証が悪い。
青い顔で固まっているウィルを鼓舞したいが、馬で駆けつけるには、小回りが効かずに近づきにくい。身体強化を使うためにも馬は邪魔になる。
マークは馬からヒラリと舞い降りた。防具や大きな身体の重さを感じさせない軽い着地。そのまま身体強化を使いウィルのすぐそばまで走る。
鼓膜が破れるかと思うくらいの声で渇を入れた。
「ウィル~!!! しっかりしろ!! 戦うぞ!!」
「はっ? は、はい!!」
ウィルを馬から下ろすと、先程から叫んで音頭をとっている賊のまえに立ちふさがる。
「そなたは、無実の罪を着せるつもりか!?」
マークの剣幕と、ウィルと教えられた人物が自分に剣を向けていることに、一瞬戸惑う。すぐに剣先を国王の乗る馬車に向けて、指示を飛ばす。
「やっちまえ!!」
「こちらは、我々が!!! そちらはお願いします!」
大勢の賊の方を引き受ける。
騎士に紛れていた反逆者は国王がのる馬車の近くで抜刀している。近くにいて訓練の行き届いている近衛騎士に任せたほうがいいだろう。
反逆者ではない巻き込まれただけの騎士は、平和ボケしているせいか、剣も抜かずに呆然と棒立ちになっているか、驚いた馬を落ち着かせるのに手一杯だ。
ラエフは、こちらを未だに睨み付けている。ウィルだけではなくマークも疑っているようだが、賊を倒すことで身の潔白を証明するしかない。
「ウィル、行くぞ。どっちが多く倒すか勝負だな」
マークがニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ウィルもそれに答えた。
「了解!」
二人は散るように走り出した。
人間の走る速さではない。軽く武装しただけの賊なら、二人の敵ではない。
マークは地面を蹴り、目の前で大声を出している男に剣を振り下ろした。
一応、賊のボスらしい男だ。生け捕りにできれば、越したことはない。死なないよう、胸当てを狙った一撃は、男を吹っ飛ばした。飛ばされた男はゴロゴロと地面を転がり、その場で動かなくなる。金属製の胸当てが、大きくへこんでいた。
ボスが最初に呆気なく倒されたからか。逃げ出すものが出始める。
人数的には不利な状態だ。逃げ出すものは放っておけばよい。どうせ人数合わせのために頼まれたのだろう。
マークは速度を上げ、戦意の残っているものを次々に斬り倒していく。証言してくれるものは数人いれば十分だ。特に下っ端は、従っているだけで黒幕や襲撃の背景など知らないことが多い。国王や外交官という国の要に剣を向けたのだ。生かしておく理由はない。
「ぎゃ!」
「うわ!」
ウィルも身体強化を使い相当な早さで駆けながら、敵を薙ぎ倒していく。剣を構えたまま走り抜けていくだけで、速度に対応できていない賊はあっという間に切り裂かれていく。
二人が立ち止まったときには、立っている賊はいなかった。
「ウィル!」
マークはウィルはお互いの無事を確認し、拳を付き合わせる。
外交官の馬車は、特に襲撃を受けた様子もなく無事。慌てて馬車から出てしまうような、へまもしていない。
国王の方はというと、必死の形相で叫びながら、ラエフが扉を押さえている。
・・・?
ラエフが扉に張り付いているので戦闘に参加できていない。そのせいで戦力が削がれてしまったのか、近衛騎士と反逆者の戦闘は、若干ではあるものの反逆者優勢である。
マークは、ラエフの近くで近衛騎士と剣を合わせている反逆者に照準を定めた。魔力も十分残っていて、負ける気がしない。
足跡が地面にくっきり残るほどの力を込めて、飛び出した。身体強化をした上で、滑らないよう一瞬だけ重力をかけ、飛び出すとともに、重力を弱めたのだ。
押されている近衛騎士と反逆者の間に剣を入れ、反逆者の方向に薙ぎ払う。その瞬間、反逆者は後ろに飛んで衝撃を和らげた。
「ここは、私が!」
押されていた近衛騎士は、魔力、体力共に限界だったらしく、その場にしゃがみこむ。
マークが反逆者と睨み合っている間に、ウィルが近衛騎士を保護した。
近衛騎士は、ウイルに保護されて、目を白黒させている。「ウィル様のため」という言葉で、反逆者なのだと思っていたのだから。
ウィルが声をかけ続けると、安心したのか気が抜けてしまった。
ウィルが手を貸そうするが、座り込んだまま呆けてしまっている。自分が突破されたら国王に危害が及ぶと、自分の持てる体力気力以上に頑張ってしまっていた。
仕方がないのでウィルは、近衛騎士を担いで馬車の近くに移動させる。
マークの戦いに巻き込まれない位置まで移動するとそこに横たえた。
マークは裏切り者の目線が馬車を向いていることに気がついた。
魔力を探ってみると、不自然な流れがあるような気がする。
マークはあまり魔力に敏感ではなく、セレーナにコツを教えてもらったが、あまり上達しなかった。少しだけ感じ取れるようになっただけだ。苦手なことには変わりない。
自分一人しかいないならともかく、仲間がいるのであれば得意なやつに任せるべきだ。
「ウィル! 魔法だ!」
そう言うが速いか、踏み込んで胴を横から薙ぎ払う。魔法に気を取られていた反逆者は、人並外れたスピードと威力に対抗する術はなく、吹っ飛び、変な音を立てて地面を転がった。
「 魔法は?」
動き出すものがいないか警戒しつつ戻ると、ウィルはニカリと少年のように笑った。
「大丈夫! 魔力を散らして不発にしておいたよ」
「さっすが!」
バシッと肩を叩くと、ウィルが腰を叩き返してきた。
敵は誰一人立っているものがいなくなると、ラエフが押さえている扉を開けた。
ウィルに関しては、疑わしいが証拠がないといったところだろうか。実際、賊の殲滅をしたのはウィルとマークだ。
扉が開くと、大きな声を出して転がり出してきた国王が叫ぶ。
「息子がいるんだ! あいつは? ウィルは無事か!?」
馬車の近くで近衛騎士を介抱していたウィルが顔を上げる。
国王からは、ちょうど死角になっていた。
「ウィルはどこだぁ~! あの子に何をしたぁ~! あの子はそんなことする子じゃない! 罠にかけられたんだ! あんな小さなときに王族としての資格を剥奪されて、それでもしっかり生きていた子なんだ!! 私はなにもしてあげられなかったのに!!」
悲痛な叫びが木霊する。大粒の涙を流して項垂れてしまった。
マークやラエフを含め、全員の視線がウィルに集まった。
緊張した面持ちで進み出たウィルは、地面に剣をおいて片膝をつき、頭を垂れる。
「国王様。ウィルと申します。覚えていてくださり、光栄でございます」
国王は顔を上げると、ウィルに飛び付いた。ラエフが止めようとするものの間に合わない。
ウィルに抱きつき、オンオンと鳴き声を上げて泣き出してしまった。ウィルの柔らかそうな金髪を撫で回すのでグチャグチャになってしまっている。
ウィルが困ったように顔を上げると、マークを見てからラエフを見た。
ラエフは大きく息を吐くと、ウィルから国王を剥がしにかかった。
「国王様。再会を喜ぶのは後にしましょう。今はこの罪人たちを片付けるのが先です」
「15年ぶりなのだぞ!! お前らは! 私が、ウィルに気がついても近づくなと煩かっただろ! 私が、どれだけウィルと話したかったか!! 罪人の片付けにウィルは必要ないだろう! 残りの者で片付けろ~!」
マークは、今までの国王の行動が腑に落ちた。
ウィルと話したくても止められた国王は、マークに話しかけることで自分の近くにウィルがいられるようにした。マークであれば、ラエフですら尊敬しているダリウスという理由があるのだから。そのために重要な会議にも入ることができたのだろう。
動ける近衛騎士と共に、まだまだ元気なマークも手伝った。
ウィルも手伝おうと腰を浮かしたが、国王にしがみつかれて困った顔をする。そうすると完全には疑いの晴れていないウィルと国王を二人だけにしておくことができずに、ラエフも近くに残るので、明らかに手が足りなかった。
死体は森の中に移動し、藁をかけておく。これは魔力の残っているマークが率先して行った。重力魔法で軽くしてしまえば数人を一度に運ぶことができる。
生きている下っ端は縛り上げて道の端に転がす。
生きている首謀者は連れて帰るように荷馬車の一部に押し込んだ。
騎士に紛れていたものは魔法が使えて厄介だが、気を失っているので近くの町で魔力封じの枷を調達すればなんとかなるだろう。
地面に端に転がした下っぱも次の町で報告して捕らえてもらうつもりだ。
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