第20話 騎士としての仕事2

 同じようなペースで進み隣国グラスコート王国にたどり着いた。我が国エルグランドの東側で国境を接するグラスコート王国は、南東に広がる気温の高い国だ。南のほうは砂漠地帯も広がっている。

 芋や米が主食で、食料の一部はエルグランドとの貿易に頼っている。その貿易の継続を話し合いにきたらしい。


 一介の騎士であるマークが、なぜ内部事情を知っているのか? それは途中の町で王に話しかけられたからだ。




 宿屋について、ウィルとくつろいでいると、強めに扉を叩く音が聞こえた。

 何事かと警戒しながら扉を開けると、近衛騎士の一人がたっていた。表情の読めない騎士を警戒しながら話し始めると、意外な言葉が飛び出す。

「国王様がお前と話したいとおっしゃった。すぐに来るよう」

 軽装では失礼に当たると思い着替えようと振り返った。部屋の中にいる、ウィルと目があった。不思議そうにしてはいるものの、行ってこいと目配せされた。

「おい! どこ行くんだ?」

「このままでは失礼に当たりますので」

「すぐに来いと言っているだろ? 国王様もそれでいいと言っている」

 この格好でいいのかと首をかしげながら、近衛騎士に付いていくと、同じ宿屋の上の階であった。

──俺たちの部屋の方が等級は低いんだろうが、部屋が上等すぎると思ったよ……

 



 穏やかな笑みを携えた国王が迎え入れてくれた。

「おぉ、よく来たな。ダリウスには本当に世話になったんだ」

 初めはダリウスとの思出話をされた。

 改革のときに、どれだけ大変だったか。父の活躍した話を聞かせてもらった。

 ダリウスは、忙しくしているうちに呪いに倒れたので、その頃の話は聞いたことがなかった。マークはとても楽しく話を聞かせてもらった。


 相づちを打っているうちに、隣国との話し合いに参加しないかと言われた

 マークが出ていい会議ではないとはずだ。どう断ればいいのかわからず、近くに控えている近衛騎士団長のラエフに視線を向ける。

 ラルフは渋い顔をしていた。

「どうだい? 君の相棒ウィル君と共に護衛として来ては? 何事も経験だよ。君の糧になるはずだ。君の父さんのにはお世話になったんだ。君には良い機会を与えたいと思っているよ」


 ──親子であっても違う人なのだから、それは信頼しすぎなのではないだろうか?


 もう一度ラエフの表情をうかがうと、眉間にシワを寄せてながら返事をしろをいうように顎を動かした。


──これは、逃れられないらしい……


「ありがたきお言葉、慎んでお受けいたします」

 頭を下げるマークに国王は嬉しそうに目を細めた。




 話し合いは順調に終わった。始終機嫌の良さそうな国王と、有利な約束を取り付けようとする外交官の後ろ姿を見ながら警戒していただけだ。

 最後に何か依頼をされていたようだが、国王のほうが二つ返事で了承し、外交官が苦言を呈していた。

 ウィルはその様子に目を丸くしていたが、マークは政治に詳しくないのでよくわからなかった。




 滞在も数日が経ち、エルグランドの食べ物が恋しくなる。

 マークはセレーナにも会いたくなっていた。ウィルは微妙な立場で、浮わついた話ができる状態ではないだろうから、そういった話は避けていたが。

 宿泊に宛がわれた部屋の中でウィルが妙なことを言い出した。

「俺は、意外と子供が好きなんだ。マーク、お前、早く結婚して、俺に子供を可愛がらせろ~」

「お前、飲みすぎだぞ」

 当番ではないときなら、適度な飲酒は認められていた。マークは、個人的にウィルの護衛もしているつもりだから飲酒は避けているが、その代わりなのかウィルが飲まされていた。

「お前とセレーナちゃんの子供なら、ぜっったぁ~いに可愛いだろ? 母親が、セレーナちゃんなんだぞ~。セレーナちゃん似の女の子だったりして~。そしたら、服とかアクセサリーとか買ってあげて可愛がるんだ~。マーク似の男の子でもいいかな~。おもちゃの剣で遊べるだろ~。セレーナちゃん似の男の子ってのも、可愛くていいんじゃないかな~」

 鼻歌でも飛び出しそうなくらいの上機嫌だ。

「だから、飲みすぎだ。俺たちの結婚は、ちょっと気が早いぞ。それに、お前が結婚できないなんて、決まったわけではないだろ?」

 微妙な立場に耐えうる女性ということにはなるだろうが、いないと決まったわけではないだろうに。

「だって、母さんが悪巧みをしている以上、エミリー嬢とは仲良くなれないだろ。それどころか、何かの拍子に謀反の罪を問われるかもしれないんだ~」

──エミリー嬢か!? たしかに難しいが……

 エミリー嬢であれば、十分ウィルを支えることができる。ただし、ウィルの母が、彼を謀反の旗印にしようとしているはずだ。エミリー嬢と仲良くすれば、ウィルが大きな影響力のある家を味方に付けたと思われてもおかしくない。

「大きな声を出すな。それにお前の思い人はエミリー嬢だったとはな~」

「むぅ~。エミリー嬢は、おっとりとしているかと思いきや、しっかりしているところが、いいんだぁ~」

──はいはい。わかった。わかった。

 酔っぱらって、グダグダ言い出したウィルに水を飲ませて寝るように促す。

──もちろん、ウィル様が幸せになれるように尽力しますとも




 ついに帰国する日がやってきた。

 国境線までは、グラスコート軍も護衛してくれた。国境を越え、グラスコート軍と別れると、急に人数が減って心もとなく感じる。


 国境近くの村を出発し昼休憩を過ぎ、次の宿泊場所へ向か う。小さな森に差し掛かったところで、辺りの様子が変わった。


 軽快に歩を進めていた馬が立ち止まり、両脇の森の中をじっと見つめて動かなくなる。御者が警戒を促し、近衛騎士団が国王の乗る馬車の周りに集まった。

 マークも剣を抜いて、騎乗で構える。



「ウィル様のためにぃ~!!!」



 ・・・・!!!


 はぁ?


 一緒に護衛を担当していた騎士の中で何人かが森に背を向け、国王の乗る馬車に剣を向けている。

 マークから確認できるのは2人。他にもいるのかもしれない。

 森の中からは、武器を持ったガラの悪い賊がワラワラと出てくる。


──多いな……



「ウィルさまのためにぃ~!!」

「おぉおぉおぉおぉ~!!!」


 急いでウィルを見れば、青い顔で固まっている。


 近衛騎士はウィルとマークを警戒し、ラエフは鬼の形相で睨んでいた。

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