第12話 魔力談義と魔道具の完成

 セレーナはすぐにエリントン家を後にし、ハワード家に向かった。

 ダリウスに事の次第を話す。緊急事態だと伝えれば、明日には王への謁見が叶うだろうと。

 異例の早さだが、王の盾と呼ばれたダリウスだからの速度だ。

「明日からギルバートがくるから、家を案内してやってほしいんだ。あぁ、そうだ。朝から来る予定だから、ディエゴにお願いした方がいいかな」

 ギルバートは、これからハワード家で働く。呪いの治療代の一部が支払えていないらしく、給金の一部を返却に当てるのだと言う。

 工房に向かい、ギルバートについてはディエゴに頼んだ。

「彼に護衛も頼んだ方がいいかもしれないな。護衛と工房の雑用と、優先順位を考えて動いてほしいと伝えておいてくれ。彼は、何だかんだと言って有能だから、柔軟に動いてもらって構わないよ」

「わかりました」

 その後、セレーナは光源の魔道具を作って過ごした。




 両手で抱えるほどの籠の中に、ガラス瓶を入れて工房に運び込んだ。デザインが好評だったのですぐに注文しておいたものだ。

 その中から、小さなガラス瓶を取り出して、魔力文字を書き込んでいく。魔力を線のようにして、小さな瓶の口から入れ、内側に書き込む。一つの瓶としばらく格闘すると、「ふぅ」と息をつき、隣の籠に入れた。

 次の瓶を手に取り、同じことを繰り返す。

 少しずつ完成品が増えてきた。

「セレーナ。ちょっといいかい?」

 顔を上げると入り口に寄りかかって、優しげに微笑むマークがいた。

「マーク様。お帰りなさいませ」

 マークに向かって微笑みかけると、切りの良いところで作業を中断する。

「あぁ、今日は何だか大変だったんだな」

「えぇ、ウィル様が大体の事は教えてくれたのですが……」

 片付けの手を止め、顔を上げる。眉尻を下げマークを見た。

「はぁ、ウィル様が王族だったなんてな」

 マークが大きなため息をついているうちに、セレーナは瓶の入った籠を棚に片付けた。

「今日は庭でお茶でもどうかな?」

「はい。嬉しいです」

 庭に移動すると、お茶の準備ができていた。

 しっとりと暗くなりつつある夕暮れに、キャンドルの光が瞬いていた。

「まぁ、素敵……」

 一口含むと、フルーティーな香りが口一杯に広がる。

「美味しい」

「それなら、よかった」

 マークもカップに口をつける。

「ダリウス様は明日、謁見に向かうそうですね」

「あぁ、何事もなければいいのだが。そこでだが、セレーナは確か、魔法理論について詳しかったよね」

「はい。学校で習った程度ですが」

 最高峰の学校で習ったものであれば十分だ。

「身体強化について教えてもらえないだろうか?今のままでは効率が悪い気がしてな。もともと魔力が多い方だから、力任せに使ってしまっていると思うんだ」

 父のダリウスが騎士にしては魔法の使い方もうまく小柄なのに立ち回りが上手かったことに比べると、マークは体格も良く力任せでも十分な強さがあった。そのため効率が悪いとは分かっていても、放置してしまったのだ。

「魔力の多いかたは、効率を考えなくても問題ありませんからね。ただ、魔力はうまく使えば長い時間使えますし、大きな力を出すこともできますよ」

「あぁ、何かあったときのために力をつけておきたい」

 自分以外の大切な人を守れるように、強くなりたいと思い始めていた。

「わかりました。まず、身体強化の魔法は、体の筋肉に働きかけています。走るときでも体全体に身体強化を使ってしまい勝ちですが、あまり使っていない筋肉もありますよね。しかも一つ一つは細く、それが集まって筋肉となっています」

 セレーナは手振りを交えて、スラスラと話し出す。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! 身体強化に体の構造の知識が必要なのか?」

 どちらかというと机に向かって勉強することが苦手なマークは、嫌そうな顔をしている。

「えぇ。体全体を強化するのではなく、使う部分だけを強化します。欲を言えば、強弱もつけて強化できると尚良いです。あっ!! それから、強化に任せて動くと着地の際などに衝撃があると思いますので、重力を小さくする魔法を軽くかけるのが良いかと」

「お、おぅ!」

 一気に捲し立てるセレーナに、マークは黙り込む。セレーナは、マークがあまり負担に思わずにできることを考えた。

「マーク様は、普段から鍛練を行っておりますので、どこの筋肉を使っているか意識しながら鍛練するのがいいかと思います」

 それであれば、マークでも実践できそうである。

「う~んと、とにかく鍛練のときに、どこを使っているか考えればいいんだな?」

「そうです。慣れてきたら、普段の生活、例えば、階段を上ったり物を持ち上げたりするときにも意識できるようになるといいですね」

「あ、あぁ……」

 マークは疲れきった顔をしているが、セレーナは、まだ少し話し足りないようだ。

 そのままセレーナを送ってくれることになった。

 家に着くまでセレーナは、魔力の効率良い使い方について、比較的簡単な言葉で説明してくれたのだが、マークはすでに覚えられそうにはなかった。




 その後は、バタバタと忙しくしていた。一番の変化は、ダリウスが王族の護衛として復帰したことだ。

 新しく働き始めたギルバートは、ハワード家の護衛や工房の手伝い、マークの鍛練の相手などをしている。

 セレーナは、まとまった時間が取れず、トマスに魔法の理論を説明できずにいた。

 それでも様子を見に行ったついでに加工を手伝い、満足のいくものが出来上がった。

 光源の魔道具を取り付けて、一つのつまみで明るさを調節できるようにした。

 エミリーに見せると、色々な角度から眺めていた。

「やっぱり素敵ね~。私が欲しいくらい。父さんに見せましょう」

 魔道具を移動させるよりも、アランに来てもらい展示する場所も確認してもらおうと、カミラに呼びに行ってもらう。

「できたらしいじゃないか」

 アランが急ぎ足でやってきた。

「これよ。素敵でしょ」

 エミリーが自慢そうに指し示す先には、力強く根を張り、大きく枝を広げた樹木に淡い光を灯した光がたくさんついていた。

「ほぅ。デザイン画よりも見事だ」

 アランも色々な角度から観察している。その様子がエミリーとそっくりで、セレーナは頬が緩むのを感じた。

 トマスは、ホッとして気が緩んだのか座り込んでしまったが、それをアランが咎めることはなかった。

「一番目立つところに展示しよう」

 店舗の入り口、ガラス窓の内側に置く。早速、道を通る人々が目線を向けていた。中には立ち止まって見たあと、急いで走っていく人もいた。この調子なら、すぐにでも買い手がつきそうだ。

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